第19話 危機からの危機


「ふぅ、ふぅ、はぁ、はぁ、もう少しくらい苦戦するかと思ったが、案外やれたな」



 鱗蛇は激しく体を痙攣させ、やがて動かなくなった。



 同時に、収奪スキルが発動し、鱗蛇の持っていたスキルが、俺の身体に取り込まれる。




【スキル名】硬い鱗 LV1


【効果】噛みつきや爪、刺突などの物理攻撃のダメージを軽減する。




【スキル名】毒牙 LV1


【効果】噛みつき攻撃時に確率で毒を付与する。毒のダメージは微量で、持続時間も短いが、放置すると徐々に体力を奪われる




 激闘の末、倒した鱗蛇の新たなスキルが俺の身体に宿ったのを感じた直後、危機察知スキルによって、新たな赤い輝点が生まれ、けたたましく警告音を鳴らす。



 敵か? それとも鱗蛇を倒したことで発生したトラップか?



 赤い輝点に触れ、鑑定を発動させる。




【魔物名】騎士の亡霊ファントムナイト


【系統】アンデッド系


【スキル名】魂の叫び (敵に精神的なダメージを与える咆哮。敵全体に「恐怖」状態を付与したり、魔法防御力を低下させる) 幻影剣 (剣に幻影を纏わせ、攻撃範囲を広げたり、敵を幻惑したりする。追加効果として、確率で敵に「混乱」や「幻覚」の状態異常を付与する) 影の一撃(一瞬姿を消し、敵の背後や死角から奇襲をかける。クリティカル率が高かったり、防御力を無視する)


【能力】ATK:B DEF:C SPD:C INT:C DEX:D LUK:D


【属性耐性】火: B 水: D 風: C 土: C 光: G 闇: B 毒:B 麻痺:B


【素質ランク】G~E



 強い……。それが三体か……。



 赤表示ってことはもうこっちを認識してるんだよな。



 武器を構え直し、警戒しながら周囲を見回すと、鱗蛇の巣穴の入り口付近に三つの人影が見えた。



 全身を重厚な鎧で覆い、剣を携えた騎士たちだった。



 こちらに近づくにつれ、隠そうともしない敵意をむき出しにする。



「おい! 止まれ!」



 俺が誰何しても、彼らは一切答えず、沈黙のまま剣を抜いた。



 問答無用とばかりに、いきなり斬りかかってくる。



 騎士の亡霊ファントムナイトたちの斬撃を鉄の大剣で受け止める。



 分厚い大剣がミシリと嫌な音をあげた。



「こっちを殺す気、満々ってことかよ! いいぜ、そっちがその気ならやってるよっ!」



 騎士の亡霊ファントムナイトたちの剣を押し戻すと、一番近いやつの横腹に蹴りを入れて蹴とばす。



 吸血のブーツの刺々しい突起によって、騎士の亡霊ファントムナイトの鎧がわずかにへこみ、吸い取ったもので身体が少し楽になる。



 ついさっき鱗蛇との死闘を終えたばかりで、体は疲労しているままだった。



 それでも、迫りくる騎士の亡霊ファントムナイト剣撃をなんとか受け流し、回避する。



「くっ! この動き! いつの間にこんな早く!」



「ヴィヴィ様も油断するなと申されていたはずだ! 囲むぞ!」



「承知、自由に動き回らせぬ!」



「なんだ……。お前らは、喋れるのか。なら、ぶっ殺す前にいろいろと聞き出さねえとは。けど、残すのは一匹だけだ。後は死んで俺の糧になってもらうぞ!」



「ニンゲン風情が、我らを愚弄しおって!」



 騎士の亡霊ファントムナイトたちの連携は完璧で、休む間もなく次々と俺に向かって攻撃を繰り出してくる。



 幻影剣、影の一撃といったスキルを使った攻撃が、まるで波のように押し寄せる。



 そんな息つく暇もない連続攻撃に晒され、俺は完全に防戦一方に追い込まれた。



 反撃する隙がねぇ……。さっきは強がって殺すと言ったが、今の俺にやれるのか……。



 ちっ! クソがっ! 鱗蛇との戦いがなければ……。互角以上に戦えてるはずなのに……。



 心が折れそうになる必死の防戦の中、相手の攻撃パターンを注意深く観察し、わずかな隙を探る。



 いや、弱気になってどうするんだ! こいつらを倒さなきゃ、何も始まらねえって思え! ここを出て、俺を裏切った世界をぶっ壊すことも叶わねえんだ! こんなところで終わってたまるかってんだよっ!



 騎士の亡霊ファントムナイトの一人が、仲間の攻撃を遮らないよう気を取られて一瞬、体勢を崩した。



 俺は、その隙を見逃さなかった。



 腐敗毒スキルを発動させ、霧状の毒を放つ。



 腐敗毒の霧は、騎士の亡霊ファントムナイトの鎧を急速に錆びさせて劣化させた。



「くっ! 卑怯な!」



「何とでも言えっての!」



 鎧が錆びた騎士の亡霊ファントムナイトに向けて、狂化を発動させた筋力を使い、大剣を思いっきり振り下ろす。



「があぁっ!」



 大剣が錆びた鎧を断ち斬り、騎士の亡霊ファントムナイトの左半身を斬り落とす。



「雷光」



 魔法が発動すると、眩い光とともに発生した雷が、騎士の亡霊ファントムナイトの身体に命中した。



「がぁあああああっ! ぬかったわっ! ニンゲン風情に……やられるとは……。後は……頼む。ヴィヴィ様の期待に……」



 雷光を受け、黒焦げになった騎士の亡霊ファントムナイトがさらさらと塵になって消えていく。



 奪ったスキルが俺の身体に取り込まれた。




【スキル名】魂の叫び LV1


【効果】敵に精神的なダメージを与える咆哮。敵全体に「恐怖」状態を付与したり、魔法防御力を低下させる。LVで効果範囲拡大。




【スキル名】幻影剣 LV1


【効果】剣に幻影を纏わせ、攻撃範囲を広げたり、敵を幻惑したりする。追加効果として、確率で敵に「混乱」や「幻覚」の状態異常を付与する。LVで攻撃範囲と状態異常確率アップ。




【スキル名】影の一撃 LV1


【効果】一瞬姿を消し、敵の背後や死角から奇襲をかける。クリティカル率が高かったり、防御力を無視する。LVで物理攻撃力向上とクリティカル率上昇。



 新規のスキル効果を確かめてる余裕はねえ。



 すぐに仲間の仇討ちをしようと、別の騎士の亡霊ファントムナイトが斬りかかってきた。



「よくも、我らの仲間をやってくれたな! 許さん!」



「ニンゲン風情に、やれる方が悪いだろ! 弱いやつが悪い!」



「我らが弱いだと! 思い上がりおって!」



 一体、仕留めた。これでけっこう負担は減るはず。このままもう一体倒しに――。



 もう一体の騎士の亡霊ファントムナイトに斬りかかろうとした瞬間、背後から強烈な衝撃が走った。



 腹部に鋭い痛みが広がり、体が強ばる。



 信じられないことに、背後から剣で貫かれていた。

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