母への反抗期

 池袋の街の姦しいさを無に帰すような母の怒号が、僕の鼓膜へ響き渡る。

 思えば僕はいつも選ぶことを忌避していた。

 流奈や家族、そして昨晩から始まった真香先輩との関係だって他力本願で…

 きっと他者からの求めを拒絶し続けてきたのだ。

「ごめん。それは出来ない」

震える節々を何とか抑えながら、僕はかつて難攻不落に思えた、拒絶の言葉を告げた。

『何でよ?』

「今から大切な人と過ごすからかな。勿論、流奈とは改めてケジメをつけるつもりだよ」

 もし今まで通り日和見主義で惰性の日々を過ごしたら、いつか真香先輩と離れ離れになってしまう気がした。

突然の急展開にあたふたしている真香先輩の華奢な手を、絡めるようにして握り直す。

絶対に彼女だけは誰にも取られたくないのだ。

『あんた目を覚ましなさい!大学での人間関係はどうするの?白い目で見られるよ!?』

「わかってる」

『そんなんじゃ就活も上手くいかないよ?もう、両家顔合わせもしてるんだし、私たちのメンツはどうなるの?結婚も出来なくなるし、あんたこれからの人生どうするのよ!』

スマホから漏れ出た母のヒステリックな声が聞こえてきたのか、真香先輩は無言で繋ぎ合う手に力を込めてきた。

お互いの手が一体化したような多幸感が僕の心を包み込む。

2人の境界線が溶けて曖昧模糊になり、深層意識へと浸透していった。

「僕が全部責任取るよ」

『そ、そんな子供みたいなこと言っていないで、早く大人になりなさい』

「迷惑かけてごめんね。でも、今までの当たり前が壊れたとしても、一緒にいたいと思う人が出来たんだ」

母はまだ何か言い残したことがあったようだが、おそらく基本的主張は何も変わらないので、ひとまず通話を切ることにした。

かくして凍晴の池袋の街で、僕は初めて反抗期を迎えたのだった。



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