母からの電話

あれから急ピッチでチェックアウトを終え、僕らの長い長い一夜に日が昇った。

池袋の街は何事もなかったかのように、機械仕掛けに動いている。

しかし、僕の左隣には嬉々とした表情を浮かべる真香先輩がいた。

…その事実に何だか胸が温かくなった。

「ね、コンビニでお酒買っていかない?」

「いいですね。どうせ明日も休みなんですし、パーっと飲んじゃいましょう。あっ、コンビニ代は奢らせてください…色々とご迷惑をお掛けしてしまったので、、」

「そういって君、ホテル代も奢ってくれたじゃん」

「…ほ、ホテル代を先輩に払わせるなんて出来ないですよ…せめてものお礼としてここは僕に格好つけさせてくれませんか?」

「もー、わかった。今日の所は君に甘えとく。次にホテル行く時は、私が払わせて貰うからね?」

「つ、次って…!」

「えへへ、本当に君は可愛いね」

真香先輩は大人の余裕を感じさせる妖艶な微笑みを浮かべながら、僕の左手を握ってきた。

それに呼応するように僕も握り返す。

明確な意図があったわけではなく、無意識のうちにそうしていた。

そんな僕らを邪魔するかのように、ポケットの中でスマホが騒々しく揺れる。

おそらくは心配性な母が早く帰ってくるように、催促の連絡をしてきているのだろう。

「…昨日帰らなかったのを心配した母から電話が来たみたいです。出ていいですか?」

「ん、何かあったら遠慮せず言ってね」

真香先輩は慈愛に満ちたはにかみをこちらへ向けてきた。

信頼感と僅かな独占欲が滲んだその様に、僕の中に眠る征服欲のようなものが満たされる。

『一生今、どこにいるの!?』

電話に出るなり、まるでモスキートーンような母の高鳴り声が聞こえてきた。

「心配かけてごめん、終電逃しちゃって池袋にいる」

『夜遊びさせる為に大学に行かせてないんだからね?』

「はい、今度からは連絡入れるようにするよ」

『よろしい。なら、早く戻ってきなさい。うちに流奈ちゃんいるから。一生もへそ曲げてないで、いい加減大人になりなさい』

母は至極当然と言った声色で衝撃的な宣言をしたのだった。


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