森谷しずか 4

 Aと別れてから暫く経っても、私はずっと気になっていたものがあった。それはAから貰ったUSBだった。絶対に開けるなと言われたものの、開けたくなるのは人間の性分なのか、それとも私の意志の弱さなのかわからなかったが、私は思わずチャックを開けて、USBを手に取っていた。

 「音」の存在は、曖昧ではあるが知っていた。いわゆる、都市伝説的なものだろうと私は解釈していた。しかし、Aがそれについて調査しているとは思わなかった。市場調査でもしているのかと思ったら、こんなオカルトめいたものに手を出していたとは驚きだった。しかし、あの緊迫した様子からして、何かしらこれには問題があるに違いなかった。

 私はそう考えていく内に、USBの興味が段々増していった。そして、結局我慢できず、憂さ晴らしの意味も込めて、パソコンにそれを差し込んだ。

 USBの中には2つのデータがあった。1つは『録音データ① 大学生に聞き込み』、もう1つは『録音データ① 大学生に聞き込みから辿った元の音源データ』と記されていた。

 私は『録音データ① 大学生に聞き込み』を選択した。それは、Aが2人の女子大生にインタビューしている音声だった。そして、その内の1人の友達がたまたま聞いていた不可解な音にAは取り乱し、録音はそこで終了した。この不可解な音がおそらく「あれ」なのだろう。そして、このデータから察するに、もう1つのデータは「音」のフル映像なのだろう。

 私は元の画面に戻り、それが保存された日付をふと確認した。日付は、2つともAと別れた日に保存されていた。正確な時間で言うと、私と会う1時間前に、それらのデータは保存されていた。私はあの日を振り返った。Aは私にあの日大学へ行ったと言っていた。もしかすると、『録音データ① 大学生に聞き込み』はあの日に行われた可能性が高い。そこで、音声からわかるように「音」を聞いてしまった。そして、なんらかの原因によって、私と会い、ついていた嘘を話し、USBを渡して別れるに至った。私はなんだか嫌な予感がして、すぐさまAに連絡した。

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