第二話 空の空 空の空なる哉
「縫、
「もーホントに、市さんは
暗い中に浮かぶ、
火に
「
蜂つかいは、屋根の上の女がいまにも幾百の毒針で
だが────
ポッポッ
「な、なにをしている?」
音がするたびに、いくつもの蜂が
味方ながら、なんとも信じがたい。
暗いなかで揺れる舟に立ち、飛び
「まさか。ありえん、蜂の一匹一匹を指で、打ち倒しているだと」
敵の蜂つかいも、
飛び
不規則に動く
自らの身体を
そのいずれもが、神速。
「こんなこと、人のできうることではない。コイツらはいったいなにものなのだッ!」
敵の
だが、当たるはずもない。
しかし、あれはどんな
これは果たして人の身になしうる
縫は、
「縫ぃ、もう
「お嬢、勘解由様の術が
「うん。門が開くと
夜空よりなお黒い。
黒く
小舟とワシらに
しごく嬉しそうに三千世様が笑う。
「
火矢から移り、小舟を火だるまにするかと思われた
煙をまとわりつかせた小舟は、
宙に昇り、露になった舟の底から
「舟が宙に浮く、だと」
「打て、逃がすなッ」
伊賀者は棒手裏剣を投げるが、船体に刺さるだけだ。
空中へと
宙に
それにつれて、小舟は霧に
すべてが
「消えおった」
「どこへ消えた?」
人をのせた舟が宙に
だが、どんな仕掛けもなかった。ただ消えたのだ。
「あやつらは、海に沈みましたかな?」
「さすがに、徳川さまの忍び殿は達者でござるな」
見えてなかったのか? 空に浮かぶ舟を。
これもあの
「
「なにぶん暗うて、
「
アイツらは、勝手に消えたのだ。
我らは、何もしておらぬ。
いやなにもできなかったのだ。
だがそのことをわかる者はここにはいない。
……気味が悪い。なんだ、この事態は?
そもそもが、忍びの技とも思えない。
あの
人の姿形に化けた物の怪であるかのようだ。
そもそもだ。
いったいアイツらは、どこから来てどこへ行ったのか
暗い海を見つめて立ちすくんでいると、侍らが
「
「
「たあいもなかなあ!」
そもそも、あの忍びの者らは、この場から逃げたのか?
少なくともあの敵の誰ひとりとして、我らを恐れてはおらなんだ。
逃げたのではなく、ただこの場所から去っただけでないのか。
つまりは、この土地での用が済んだというだけということなのではないか?
自分に浮かんだ疑問に対して、言い知れぬ不安がわき起こる。
あの忍びどもは、いったい、こんな
日ごとに
原城址に
「
「バチかぶつとっけん死体もあがらんとでしょう」
死体と聞くと同時に
「もしや、アイツらは────」
あの忍びがこの
人の死に用があったのではないのか。
それも
求めるだけの数の死が得られたので、消えてくれたのだ。
「消えて、くれただと?」
なにを思うているのだ、我は。
人を人とも思わず、死をも恐れない自分が目の前から敵がいなくなったことに
そう
交代の者が来たと
「さようか。では我らも
「なんの匂いだ?」
暗い水面には
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