第5話 元特撮俳優、気付く
それから数秒、俺とローカルアイドルはガチ怪人と睨み合った。
クソッ、こんなことなら彼女の名前をちゃんと聞いておくんだった。ここまでずっと『ローカルアイドル』表記じゃないか! さすがに失礼だろ、俺!
言い訳をさせてもらうと、直前まで名前を知らされていなかったのだ。ただ、とにかく、ローカルアイドルである、と。予定ではこの後、顔合わせをするはずだったのだ。まさかこんな形になるとは。
ここからどうしたら良いのだろうと、とりあえずそれっぽい
「突然巻き込んじゃってごめんなさい」
怪人から視線を外さずに、彼女が言う。
「私の名前は、ロー・カルア・イドル。異世界から来ました。どうぞ『イドル』とお呼びください」
まさかの『ローカルアイドル』が名前!! 確かにそんな感じで区切ればまぁなんとなく名前感はある!
「お願いします、どうか、あなたの力を貸してください!」
「お、俺に出来ることなら!」
よくわからないことになって来た。
何が正解かはわからないけど、たぶんこれで合ってると思う。おそらく、
どうせ最後は「テッテレー! ドッキリでしたー!」となるのである。俺はとにかくきれいに騙されればそれで良いのだ。
「それではまず、この
そう言って手渡してきたのは、薄い鉄板が縫い付けられた鉢巻だ。特ソルHAYABUSAは忍者設定だったので、鉢金が変身アイテムだったこともあり、妙な懐かしさがある。額の鉄板部分以外は布なので携帯にも便利。ちゃんとその辺は俺の経歴に合わせてくれたのだろう。助かる。
俺は手早く鉢金を頭に巻いた。
「イドルさん、出来ました!」
「では、変身です」
……では、変身です?
変身ですって言ったか、いま。
えーと、ポーズとか打ち合わせしてないんですけども?
「あなたはもうわかっているはずです」
「わかっているはず……ということは!」
なるほどわかった!
HAYABUSAの変身をやれってことだな!? 確かに俺も番組終了後は色んなバラエティに呼ばれてはリクエストされたものだ。もちろん動きだって身体に染み付いている。あれを全力でやれと、そういうことなんですね、プロデューサー!
何だよ、今回のドッキリ! なんか俺だけ毛色が違わないか!?
でももうやるしかないのである。
もうそのレールにしっかりと乗ってしまったのだから。ここまで来て途中下車は許されないのである。
「……っ、へ、変身っ!」
俺は胸の前で指を組み、九字を切った。有名な、
で。
最後の『前』の構えを取ろうとした時だ。
「
吉田さんである。
マネージャーの吉田さんが息せき切ってこちらへ駆けてきたのだ。
彼はこちらへ着くや怪人とイドルさんに向かって「ちょっと失礼します」と手刀を切りながら会釈し、辺りを見回してからこそっと耳打ちしてくる。
「もーこんなところで何やってるの? 例のアレ、始まりますよ?」
「え? あの、アレって……?」
「だから、ドッキリですよ、ドッキリ。今日だったんですよぉ!」
「は? え? いや、え? じゃあ……」
いまのこれは何?
そう思いながら、こちらの話が終わるのを律儀に待ってくれている怪人とイドルさんを見る。彼らは至極真剣な表情で俺を、いや、俺達を見つめていた。
いや、ほんと何!?
ドッキリ企画じゃないんだとしたら、一体これは何なの?
無駄にクォリティの高い怪人とか、この小道具の鉢金とかさ!
が。
「潮君!?」
吉田さんの慌てた声で我に返る。どうやら身体に染みついたアレで、『前』の構えを取っていたらしい。気付くと俺の身体は光に包まれていた。
「こ、これは――!?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます