第4話 元特撮俳優、巻き込まれる

「助けてください!」


 そんな言葉と共に楽屋テントの中にローカルアイドル(推定)が飛び込んできた。


 おいでなすった!


 俺は歓喜に湧いた。

 来た、とうとう来た。


 演じ切ってみせるぜ!

 ヒーロースイッチ、オーン!


「どうしたんですか?」


 だが、まずは冷静に対処だ。

 ここでいきなりヒーロームーブをかますのは得策ではない。何でコイツそんな立ち上がりが早いんだ? と視聴者にドン引かれてしまう。元特撮ヒーローでも役が終わればただの俳優。だけれども、有事の際には正義の心が顔を出して――、みたいなのが良いのだ。最初からヒーローヒーローしてたらただのうざいやつなのである。


 ローカルアイドルは切羽詰まった表情で、俺としっかり目を合わせて言った。


「怪人が!」

「怪人が?」


 えっ?

 このパターンはさすがに初だな。

 えっ、今回そんなファンタジー設定なんですか?


 仕方ない、どう考えてもありえない設定だが、そういうのも信じちゃう天然ピュアキャラで行くことにしよう。そういや特ソルHAYABUSAの善明寺も天然ピュアっ子だったのだ。一人称も『僕』だったしな。こうなったら、「善明寺役の子、普段もあんな感じなんだ」で通すしかない。


「怪人はどこですか!?」

「こちらです!」


 言うや彼女は俺の手を取った。思った以上に力が強い。逃がす気なんてありませんよ、という強い意思を感じる。


 そうして導かれるままに飛び出したテントの外には――。


「か、怪人……」


 本当にいた。

 かなりリアルな造形の怪人である。すげぇ、何でこんなところに予算使ってんだ。特ソルの撮影が蘇ってきて、何ならちょっと懐かしさまで覚えるクオリティである。まぁ、番組的にはガチでドッキリを仕掛けるつもりでいるんだろうし、そりゃあここは手を抜かんよな。


「ゲーシャゲシャゲシャゲシャ! 仲間を連れてきたか! でも無駄だ!」


 およそ素人には不可能なタイプの笑い方をする怪人である。


「無駄じゃないわ!」


 そしてローカルアイドルも本気だ。本気の演技だ。すごいなこの子。原石なんてもんじゃないぞ。もうかなり仕上がってる。ていうか、俺はこれ、どういうノリで加われば良いんだ。さすがにこれは予習のしようがない。


「やっと見つけたの、あなた達を倒せるヒーローをね! 彼よ!」


 そう言うと彼女は、ビッと俺を指差した。思わず、「俺?」と素の声が出る。


「私にはわかったわ、あなただ、って」


 まぁ、ガチめの怪人が出て来ちゃった以上、こういう展開になるのはわかってたけど、正直キツい。だけど乗っかるしかないだろう。ここでぶち壊せば当然この企画は失敗だ。それも放送してくれるならまだワンチャンありそうだけど、御蔵入りになってしまえば、スタッフから「空気を読めない、使えないやつ」と思われて終わりである。この世界、スタッフに嫌われたらおしまいなのだ。


 だから、番組をおいしくするためにも全力で乗っからなくてはならない。上手いこと編集してくれ! そして、スタジオで大いに沸いてくれ! とんでもねぇピュアっ子だなと笑ってくれれば御の字、最悪、電波俳優なんて不名誉な称号を賜るかもしれない。けれども、何もないよりはマシだ。生き馬の目を抜く芸能界、何かしらのインパクトが重要なのだ。


 やってみせる!

 それがヒーローだろ!


 ただなんか、ヒントくらいはください!

 ノーヒントで世界観全部つかめってのはさすがに無理ゲーすぎるから!

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