第3話 白砂こそが泥団子のリーサルウェポン
で、俺が生まれたってワケ。
俺は丹念にクソデカ泥団子を白い砂で仕上げながら、しみじみと空を見た。
「もう五年か……」
柔らかなふたつの太陽の日差しがぽかぽかと全身を包み、大空を飛行機ほどはありそうな鳥が集団で往来を繰り返す。
そう、めでたくも俺がこの世界に生まれ落ちてから五年が経つ。なんか前世の記憶は残ってた、理由は分からん。
もしかしたら天子ちゃんに直接転生門に送られたからかもしれん、最後まで適当なヤツだったな。
そして今の俺は全てがキッズの極み、360度どこから見ても恥じることのない五歳児のガキだ。
故に泥団子を作っているわけですね。
「……ーん」
素晴らしい出来だ。
この指の隙間からさらさらと落ちる砂のなんと美しいことよ。
間違いない、今日こそ最高傑作ができる。
泥団子に必要なものはなんだ?
水? 泥? いいや違う。さら砂だ。このぱりぱりと乾いたキメの細かな砂こそが泥団子において必須、泥団子職人の俺はこの晴れ渡った日をどれだけ待っていたことか!
「……ンくーん!」
静かに日陰で乾燥させておいた泥団子へやさしく白砂をふりかけ、丁寧に、優しく、されど力強く泥団子をズボンへとこすりつける。
長い時をかけ完成へと近づく彼らは、まるで生誕の喜びを全身で示すかのように艶やかな照りを生み出す。
「素晴らしい……本当にすばらしいよ……!」
俺は今この村のキッズ間でこう呼ばれている、『泥団子のシュン』、と。
俺の生み出す泥団子は自慢じゃないが究極だ。
照り、丸さ、重み、そのすべてがほかのガキ共とは比べ物にならならず、俺の泥団子を見せつけるだけでガキ共はへりくだり、たとえ年上でも俺の命令を聞く。
これが球体、最も完璧です。
そんな俺が確信をもって言おう、この泥団子は既存のすべてを超えたと。
そして名付けよう! 君の名は究極天極み泥団子・至極、と!
「シュンくーん!!!!」
「うわぁ俺の究極天極み泥団子・至極がァッ!?!?」
俺の究極天極み泥団子・至極がァッ!?!?
勢いよく飛び込んできたキッズの足によって見るも無残に打ち砕かれる究極天極み泥団子・至極。
苦節一か月、長い研究の果てに産み落とされた人類、いや世界の希望はもはや地面の土くずと変わりはしない。
「あっ……ワァ……!」
泣いちゃった!
愛しの彼の残骸を抱きしめ熱い雫を静かにたらす俺。
これ非人道的行為と言って差し支えないだろ。
「何すんねんラナ!」
「あー、ごめんね」
ニコニコと、みじんも悪いと思ってなさそうな満面の笑みを浮かべ、横にしゃがみ込む茶髪ボブヘアーのガキ。
彼女の名はラナ、苗字はまだない。
第一俺が住む村の奴は半分くらいがない。
ラナは俺の幼馴染みたいなもんだ、一応一歳は年下だったはずだが。
というか大体この村、ラフタ村にいる子供は幼馴染みたいなもんだ。
なにせラタ村は境界線(?)なる場所の近くに作られた開拓村であり、住人たちの大半は同じタイミングでこの場所へと訪れた。
必然、生まれる子供たちはみな同年代というわけである。
「ねね、ご飯だって! 帰ろ?」
自分が踏みつけた泥団子の欠片をカシュ、と握りつぶし、くすくすと笑いながらラナが言う。
まあ俺は大人ですからね。
泥団子をキッズにブチ破壊された程度で怒るほど短絡的じゃありませんよ。
いつか覚えておけよ。
「しょうがねえなぁ……」
俺はまだ磨きあがっていない泥団子たちをやさしく抱きかかえ、そっと馬車小屋の中、壁際へと彼らを安置する。
「ヒルメシなにー?」
「んー、わかんない! ごはん!」
そりゃごはんだろうよ。
乾いて硬く凹んだ轍の後をぴょい、と飛び越え、傍らの細長い草を千切って振り回しながら俺たちは歩いた。
牛の背中をブラシで擦ってるピーヤ婆、水車と洗濯用の小屋を修理するポフィおじが遠目に見える。
ラフタ村の人口は50人もいない、必然村の中で見かける人間なんて全員が顔見知りだ。
そう、例えば……
「スカー! 仕事しろよ!」
この木に寄りかかって寝ぼけている、茶髪のさえないおっさんもだ。
今が好機!
勢いよく地面を蹴り飛ばした俺は、茶髪のおっさん、スカーのすねへと思いきり蹴りを放った!
「ーーおわっ!? あれ?」
しかし、完璧な隙を狙った俺の攻撃はいともたやすく避けられた。
いや、正確に言うのならば、すでにスカーはそこにいなかった。
「我はここにいることが仕事だからよい」
「なっ、やめろっ!」
背後から声がかかったと思ったと同時、俺の両足がふわりと地面から離される。
くそっやられたっ!
魔法だッ!
ぐりん、と後ろを振り向くと、呆れたようにスカーは両腕を組みため息を漏らす。
「次いで、汝は人を見かけたら蹴れと教育されているのか? ん? ぶち殺すぞクソガキ」
「
俺が理不尽にもスカーの手によって抓られる中、彼の足元からラナの笑い声が聞こえる。
ちょっと恥ずかしいじゃん。
「反省は?」
「あっす! しゃっす! あじゃじゃっす!」
「クソガキめ」
適当な生返事にスカーはすぅ、と目を細める。
これは彼があきらめた時のサインだ。チョロい奴め。
一瞬魔法が弱まった間際、俺はポケットから白砂を一握りつかみ上げると、彼の眼もとへとさっと振りかけた!
「おらっ!」
「無駄だ」
スカーが手を一振りすると、俺の砂がまるで運動エネルギーをなくしたかのように地面へと無力に落ちる。
目つぶしは失敗、か。
――なんて、失敗じゃないね!
「そうかよ! じゃあな!」
なにせ魔法の束縛はすでに消えているのだから!
完璧な着地! そして疾走!
ガキの逃げ足はゴキブリに勝る!
「行くぞラナ!」
「うん!」
少し追いかけようと逡巡するも、面倒だと思ったのか再び木の根元へと座り込むスカー。
ちょっと離れた辺りで彼の様子を見ていた俺は、すう、と息を吸って大声を張り上げる。
「おいスカー! いい加減今度魔法教えろよな!」
そう、魔法だ。
先ほど俺を空中に固定したのも、そして背後へといつの間にか移っていたのも彼の魔法故。
この村で最もハイレベルな魔法を使えるのは誰に聞いてもスカーだと言われるが、何度言ってもスカーは魔法の使い方を教えてくれない。
かれこれ半年は経つだろうか。最初は穏健な態度を取っていた俺だったが、こんな強硬策を取らねばらならぬことになった理由がこれだ。
「魔術、だ。よいか、魔法と魔術には体系からして隔絶した差がある、まず歴史を紐解くと――」
アッ! なんか面倒くさそう!
一度スカーの魔法談義を聞いてみたが、あの時は夜の10時まで語り、結局魔法の使い方どころか歴史の終盤だか何だかを語られただけで終わってしまった。
スカーは多分頭でっかちなタイプだ。
「メシあるから! じゃ!」
俺たちはひらりとスカーへと背を向け、たったかと家の方角へ走り出した。
いやー、今日の飯はなんやろなぁ!
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