第44話 ハッピーマフィンマカロン

 ――2月14日、バレンタインデー。

 世間ではチョコレートが何たらかんたらとニュースで報道され、甘酸っぱい青春のイベントとなる。

 が、俺はここ数年母親と夏織のお母さんからしか貰えていない。まぁ、あの美人妻からもらえるだけありがたいが……。


 毎年夏織はこの日になると挙動不審になるが、別にチョコをくれるというわけでもないのだ。


「ふわぁぁあ……」


 そんなこんなでやってきたバレンタイン当日。

 特に変哲も無い朝を迎える……はずだったのだが、俺のベッドがこんもりと盛り上がっているように見える。


 ガバッとそれをめくってみると、そこには紗里奈ちゃんが潜っていたのだ。


「うぉッ!? さ、紗里奈ちゃん!!?」

「おはようございます、おにーさま。今朝はまだ冷え込みますね。おにーさまが温いです」

「び、びっくりするからやめてくれ……。ってか、今日はなんでまた俺ん家に?」

「それは……これを渡すためでございます」


 そう言って手渡してきたのは、可愛らしい包装がされた箱のようなものだった。


「これは?」

「チョコレートでございます。おにーさまを思って作りました。愛がたくさんこもっておりますので、味わって食べてください」

「おぉ……!! ありがとう紗里奈ちゃん! 嬉しいぞ〜〜!!」

「感謝はありったけ示してください」


 両腕を広げ、ポーカーフェイスだがどこか期待しているような眼差しを感じ取れた。その意を汲み取り、俺はギュッと紗里奈ちゃんを抱きしめる。

 すると顔は見えないが、「ふふふ」と笑って嬉しそうに抱き返してきた。


「ありがとな、これで友達に自慢できるわ」

「存分に自慢してやってください。では、わたしはこれで。バイバイです、おにーさま」

「そうか。じゃーなー」


 どうやらチョコを渡すためだけに家に来てくれたらしい。これはホワイトデーを全力でお返ししなければならないな。

 朝から心にしみる贈り物をもらい、意気揚々としながら朝ごはんを食べ、制服に着替える。


 その後は何事もなく学校へと登校しようと思ったのだが、やはり毎年恒例の挙動不審な夏織がやってきた。


「あ、あのさ〜……。えーっと……」

「なんだ夏織。また挙動不審モードか?」

「え、いや、その……。なんでもない」

「? よくわかんねェけど、そろそろ学校行かないといけないし行くか」


 もしや今年こそはバランタインチョコをもらえるのではと期待したらしていたが、そんなわけではないのかもしれない。

 一応俺のことを好いてくれているみたいだが、だからと言ってチョコを渡すかどうかは人それぞれだし。


 妹からもらえたし! 気にしてないしッ!!


 俺はそう自分に言い聞かせながら、学校へと登校して自分の教室に入った。


「芹十ーー! テメェは、裏切り者か?」

「……おはよう連太郎。開口一番何を言いだすんだお前」

「チョコだ! もらったのかもらってないのか聞かせてもらおうじゃあねぇか!!!」


 教室に入るや否や、連太郎に鬼気迫る勢いでそんな質問をされる。


「母さんと妹からもらっただけだ」

「なぁんだ〜〜!! だったら俺と同じ……って、ちょい待て。お前、妹っていたか……?」

「人の家庭事情にあまり首を突っ込むなよ」

「待て! お前のその妹が超絶可愛かったら話は変わるぞ!! 吐きやがれーーッ!!!」


 面倒臭い事になり始めそうだったが、ここで助け舟かのように冬姫がこちらにやってきた。

 しかし、その手に持っているものを見て助け舟ではなく、こちらを沈めんとする戦艦だと気がつく。


「おはようございます芹十くん。今日はバレンタインデーということで……芹十くんのためにマフィンを作りました。受け取ってください♪」

「え、あ、アーー……。アリガトナ」


 い、いかん……。このままでは俺は集中砲火だ……!!

 蜂の巣を突いたというか、 蜂の巣をマラカスみたくシェイクしながら蜂の子を食べてるようなものだ。


「……おや、あまり嬉しそうではありませんが……。もしや迷惑でしたでしょうか……?」

「そ、そんなことないぞ!? 嬉しいがちょっと周りからの視線がアレといいますか……」

「あぁ、そんなことですか。安心しましたわ。ふふ……どうせなら見せつけながら食べさせるというのもアリですね……♡」

「え、遠慮しておく……」


 これ以上刺激をしたらこの後のことが大変になるだろう。魅力的な提案だが、ここでは一旦断らせてもらおう。

 汗をダラダラ垂らしながら、なんとかひがようと教室のと扉の方まで向かったが、そこには晶くんがいた。


「あ! セリくんお嬢サマからチョコ貰ったんスね〜!」

「まぁな。……この出来前を見るに、晶くんご教授の元作られたんだろ?」

「エ! な、なんのことかさっぱりっス〜……。そ、そんなことより僕からもマカロン作ったんであげるっス!!!」


 誤魔化すように手渡してきたマカロン。

 確かマカロンって作るのめちゃくちゃ大変だとか聞いたことがあるが……。それを俺のために……!!?


「ありがとう晶くん……! 家宝にするよ……!!」

「ちゃんと食べて欲しいっス!」

「む……! ワタクシの時と反応がだいぶ違いますね! 何故ですか芹十くんっ!!」


 晶くんのマカロンに感涙していると、冬姫は頰を膨らませ始める。


 晶くんに教えてもらって作られたマフィンっぽいが、夏織も彼に教えてもらえば美味しいお菓子が作れると思ったんだが……。

 まぁ、夏織はまずバレンタインに興味がないんだろうな。


 そう自分の中で答えを出し、二人からもらったお菓子を堪能した。

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