第11話 最高のデレのため険悪期

 ―夏織視点―



 ――土曜日、休日にて。

 待ち合わせ時間は十時だが、久々に芹十とのお出かけデートということで早く準備しすぎてしまった。

 ……まぁ、柞木田冬姫余計な奴もいるけど。


 さらに、「どちらがファッションセンスが優れているか」という勝負もすることになったため、バッチリ決めてきた。

 そして現在、早く起きすぎたので芹十の家までやってきたところだ。


「芹十、おはよっ。……あれ、まだ寝てる?」

「すー……すー……」


 ベッドで寝息を立てる芹十。

 寝ている間に死んでしまっているということはなく、一先ず安心だ。

 ほっと一息つき、懐からスマホを取り出して……。


 ――パシャパシャパシャパシャ!


 私は芹十の寝顔の写真を撮りまくり始める。

 寝ている人を勝手に撮るという行為はよろしくないとはわかっている。けど、目の前に焼きたてホヤホヤの飛騨牛が手招きしていたら食べるでしょう? それと一緒だよね!


「ふふふ……今日も可愛い♡ コレクションに入れとこ」


 写真のフォルダを整理し終えて電源を切ると、黒い画面に不細工に笑っている自分の姿が映ってハッと我に帰る。

 ペチペチと頰を叩き、再び芹十に視線を移した。


(……そういえば昨日言ってた生徒会選挙の件……。確かあの時から、私って〝LIKE幼馴染として好き〟から〝LOVE異性として好き〟になったんだろうなー。あの時も本当にカッコよかったなぁ……)


 寝ている芹十の頰をツンツンと突きながら、昔のことを思い出し始める。



 # # #



 ――数年前。


「汐峰夏織、僕と付き合ってくれ」


 現在中学二年生の私は、来る日も来る日も告白してくる男子生徒たちをさばいていた。

 今日告白してきたのは確か雲上うんじょうという男子。視線が鋭くて高圧的な態度で、あまり良い印象はない。現に、鼻に付くような自信満々な顔で告白しているのが癪だ。

 もちろん、私の返事は……。


「ごめん。私そういうの興味ないし。君のこともよく知らないし、知ろうともしないから。じゃ」


 断る際、変にフォローして気遣ったりするとまた告白してきたりするやつもいる。だから私は、こうして突き放すように断っているのだ。

 踵を返して帰宅しようとしたのだが、雲上がそうさせてくれなかった。


「は? おい、ちょっと待てよ!!」

「いたっ! 何すんの!?」


 肩を思い切り掴まれ、グイッと引っ張られる。

 私はそれを振り払ったのだが、さらに腕を掴まれた。


「ねぇ離して!!」

「後悔することになるぞ汐峰……!」

「はぁ? 意味わかんないし! 先生に言うよ!? 私がお前と付き合うことなんか絶っっ対無いから!!」

「チッ! せいぜい震えて眠れ。後で泣きついてきたらまぁ、しっかり可愛がってやるからよぉ」


 パッと手を離し、悪態をつきながらこの場を後にする雲上。腕をまくってみると、赤くなった手の跡が残っていた。

 私は「最悪。あー最悪」とブツブツ呟きながらその跡を擦り、の元へ向かう。


「やっと来たか……遅かったな夏織。手こずったりでもしたか?」

「そーだよ! 聞いてよ芹十〜〜」


 壁にもたれながら推理小説を読んでいた私の幼馴染、松浦芹十にそう声をかける。

 昔は毎日遊ぶほど仲が良かったけれど、成長するにつれてそれが減った。まぁだけど親同士が仲良いので、よくこうして待ち合わせをして帰っている。

 まぁ話は面白いし、揶揄い甲斐があっていいんだけどね〜。


「さっき雲上って奴に告白されたんだけどさーー」

「あぁ、アイツか。頭がそこそこいいクラスメイト」

「ん! これ見てよ! 告白断ったらいきなり腕掴まれて最悪だった!!」


 私は片腕をまくって、さっきつけられた手跡を芹十に見せた。


「……へェ……アイツが、ね」


 ――ピリッ。


 瞬間、背筋が凍るほど冷たい雰囲気になる。

 私のために怒ってくれているのだろうかとも思った。だがまぁ、今の彼はそこまで仲良くないし、ただの風邪だろうと言う結論になった。


 ――そんなやり取りがあってから数日が経った頃。


 いつも通り中学に行き、授業後に先生から頼まれた荷物を運んで教室に戻る最中だった。


「はぁあ〜。もうすぐ生徒会選挙だけど、なんで雲上アイツが有力候補なのか意味不なんだけどな〜〜」


 もうすぐ次期生徒会長を決める選挙が始まる。

 立候補者の中には私に告白してきた雲上もいたのだが、なぜか有力候補となっていたのだ。

 あんなクソ野郎が生徒会長になったらもう……この中学は終わりだね。あーあ。


「……ん? なんか声がする」


 ブラブラと歩きながら雲上の悪口を心の中で言っていると、ふと使われていない空き教室から声がした。

 気になった私はひょこっと顔を出してそこを覗き込む。


 するとそこには芹十と、あの雲上の姿があったのだ。


「ククク。いやぁ、お前と友達で良かったぜ、松浦。裏で色々してくれてありがとな」

「別に。ただ約束は守ってもらうぞ、雲上」

「わかってるって。僕が次期生徒会長になったら、あの汐峰を確実に言いなりにできる公約を実現させる。それでまぁ、汐峰を散々可愛がって飽きたらお前にやるって約束だったよな」


 はぁ……? アイツらは何を言ってるの?

 雲上はともかく、幼馴染である芹十そんなことをしようと考えているだなんて……!


 私はその教室から離れ、ずんずんと歩みを進めた。


「はぁ……最っ低。芹十があんな奴だったなんて。二度と顔を合わせたくない……!」


 ――こんなのを見せられたら、芹十が悪い人だと断定してしまうのも仕方ないだろう。それが本当はで、だなんて気づくわけがない。

 この時の険悪な期間があったからこそ今では反動がきているとわかったが、この時の私はまだ気がついていない……。

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