第2話
その日の放課後。
サッカー部が練習をしているグラウンドの前を通った美咲は、違うクラスの親友に声をかけられた。
「美咲!!」
「あ、優ちゃん…」
中学校の時から仲良しの篠原優香が、サッカー部のフェンスの前で手招きをしている。
それに誘われるように美咲も、そちらへと足を向けた。
「優ちゃん、何してるの?」
「片平先輩を見に来たんだよ」
あ、そっか。
晴斗はサッカー部だっけ…?
「優ちゃんも晴斗が好きなの?」
「うーん、直接話したことないし、完全な好きとは違うけど、やっぱり憧れはあるよ?」
「…憧れ?」
「先輩、サッカー上手だし、見てると、オーラが他の人と全然違う。輝いてるし、やっぱカッコイイよね!」
優香は目をキラキラさせて言ってきた。
サッカーが上手?
他の人とオーラが違う?
輝いてる?
カッコいい?
どれも、美咲には理解出来ない単語ばかりだ。
私にはやっぱり、ただのいじめっ子にしか見えない。
皆、本当に騙されてると思うけどなぁ。
はぁ…、とため息をつき、周りを見渡す。
沢山いる女子のほとんどが、晴斗目当てなのだろう。
「あ、あのマネ!また晴斗にくっついてるー!」
「またぁ!?今日、何回目!?」
隣で悔しそうに叫んでいたのは、美咲の一つ上、晴斗と同級生の先輩達だ。
苛立ちを隠せないように、フェンスを握る拳に力をこめている。
その視線の先を見つめると、ジャージ姿の女子生徒がグラウンドの脇に立っている。
美咲と同じ一年で、サッカー部のマネージャーをしている子だ。
休憩の指示を送っている晴斗の隣で、持っていたタオルを手渡すところだった。
「ありがとう」と晴斗がそのタオルを受け取ると、彼女は嬉しそうに頬を染めた。
少し離れたこの場所でも、晴斗に気があるのは丸わかりだった。
「あ~ん、もう、くっつくな~!」
「あのマネ、まだ治ってないの?」
晴斗が汗を拭いて再び練習に戻ると、その子もヒョコヒョコと足を引きずるように歩き始めた。
「あの子、足ケガしてるんですか?」
隣の優香が、その先輩達に問う。
「前にさ、晴斗の蹴ったボールがあの子に当たりそうになったの。それを避けようとして、転んで足ひねったんだって!」
「にしたって、あれから何日たってると思ってんの?絶対あの足、もう治ってるでしょ?」
「晴斗、優しいから責任感じて、毎日家まで送ってあげてるらしいよ!」
サッカー部のマネージャーを晴斗が家まで送り届けてるって、そう言えば、クラスでもその話をしてる子がいたっけ?
「晴斗、絶対騙されてるのにぃ!」
ギリリ…とフェンスが潰されそうな音を耳にする。
この先輩達、そのうち怒りで本当にフェンスを突き破って、あの二人の間に割って入りそうで怖い…
そんな悲惨な光景を想像し、恐怖を感じた美咲はそっと帰路についた―――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます