第一章

私の苦手な男

第1話



「はぁ…。晴斗先輩、今日もかっこよかった…」


「こっち見てたような気がして、なんかドキドキしちゃった〜!」


「やっぱり?先週も先々週も見てたような気がするの!」



 片平晴斗が去った後、クラスの女子達が騒ぎ始めるのはいつもの事。



 皆一様に、顔をホクホクさせながら、その興奮は冷める様子がない。



「ねぇ、どうする?もし、このクラスに先輩の好きな子がいたら…」


「ヤバい、ヤバい、ヤバい!それ、ヤバすぎなんだけど!」



 選択授業で週に1回、奇跡的にこの一年のクラスの前を通る晴斗を、熱い視線で目に焼き付けては、キャアキャアと盛り上がるのが楽しくて仕方がない。



 好きな芸能人を話題にするみたいに、晴斗は誰の手にも届かない、皆の憧れの人だった。



「だって先輩って、今彼女いないんだよね?」


「この学校に転入してきて既に半年だけど、誰とも噂になってないよ」


「この間、先輩に告白した2組の子、凄く可愛かったのに、ふられちゃったみたいだし」


「じゃあ、やっぱりこのクラスの誰かに片思いとかぁ?」



「きゃぁぁぁ〜!!」と、教室中に女子の甲高い声が響く。



 たった一人を除いて……



「ねぇ、ねぇ、さっきから黙ってるけど、美咲はどう思う?」



 突然、話題を自分にふられ、自分の席から窓の外の景色をぼーっと見ていた片平美咲は、慌てて皆に顔を向けた。



「え、な、何っ?」


 

「晴斗先輩だよ。このクラスに好きな人、いると思う?」



「さ、さぁ~」



「気にならないの?先輩の事」



「…うん。私、あの人、実はちょっと苦手で…」



「はぁっ?何で!?」



「なんか、意地悪そう…だし?」



「意地悪!?美咲、知らないの?先輩ってね、顔だけじゃなくて性格まで、超優しいんだから!」



「へぇ~」



「今ね、サッカー部のマネージャーが足を怪我してるのを、毎日部活終わり、家まで送り届けてあげてるらしいよ」



「そうなんだー…」



「さぁ~」とか「へぇ~」とか「そうなんだー…」とか、素っ気ない返ししか知らない美咲に、本気で信じられないといった顔で目を丸める友人達。



 やがて、その中の一人がぼそりと呟く。



「……美咲が求める優しさが何なのか分かんないけど、たぶんこの地球上の男達は、誰も持ち合わせてないと思う…」

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