私たちの自由と選択

はやい

第1話 浮気相手

side K

昨夜、彼と一緒に過ごした。

彼女が実家に帰っていたらしく、職場の忘年会が終わった後、タクシーで彼の家に一緒に帰った。悪い事だ。


水を沢山飲んで、眠る用意をした。ベッドで話をした。

彼は泣いていた。私を不幸に引きずり込んだ事を悔やんでいた。

私も泣いた。声をあげて泣いた。すべては私が元凶なのだ。そんな事は分かっていたはずなのに。こんなにも人を好きになった事が無かった。こんなつらい思いをするなんて知らなかった。ひどく喉が渇く。

私の愛する人が、私のせいで泣いている。でも止められなかった。

私は本当に彼が好きだ。もう後には退けない。諦められない。

気づいたら、私たちは取り返しのつかない所まで来てしまっている。

彼と幸せになりたい。


目が覚めると、彼と彼の彼女が毎日眠っているベッドで私は一人だった。暖房で部屋がぬるい。

彼はシャワーを浴びているらしい。眼が腫れている。今日は両親に会うのに。

昨日は酔っていた。楽しかった。眠る前、いろんな話をした。私も彼もずっと泣いていた。初めて夜を過ごしたのに、結局泣きつかれて眠ってしまった。

自分の人生でここまで人を愛する事があるとは思いもしなかった。

浮気なんて他人事だと思っていたし、当然悪い事だと知っている。

なのに私の気持ちは、日を追うごとに大きくなっていく。

他人を不幸にしてまで得る幸せに、価値はあるのだろうか。同じことをされたらどうするだろうか。


仕事の支度をした彼は、冷たい水とたべかけのみかんを持ってきてくれた。

床に脱ぎ散らかしたジーンズを履き、助手席に乗った。

彼は運転中にも手をつなぐ人らしい。知らなかった。彼のくれた真鍮の指輪が、右手中指に居る。私は彼の事を何も知らない。職場でたまに見かけるくらいの人だった。なんでこんなに好きになったんだろう。他人のものだから美しく見えるんだろうか。私がこの人を見放すことがあるんだろうか。


家に着き、シャワーを浴びた。終わりかけの生理が気持ち悪い。私は女なんだ。

人の平穏を破壊した最低の浮気相手だ。

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