第2話:実体化したビスケット。

僕の家のごく近所に雷が落ちて天井の照明もPCも全部落ちた。


「あ〜あ、やられたよ、PC大丈夫か?・・・イヤだよな・・・雷は嫌いだよ」

「だって雷なんかなんの役にも立たないだけだろ」


電気が来ないんじゃ、まじでなにもできない。

しょうがないから、そこに座ってしばらく復旧を待つことにした。

今日は日曜だから親父もおふくろも家にいる、今頃台所かリビングでビビってる

だろうな。

様子を見に下に降りようかと思ってたら案外早く電気が復旧した。


チカチカと天井の照明がついた。

だけどPCは電源が落ちたまま。


「よかった、とりあえず明かりはついたか・・・」


雷の音が遠ざかって行くのをしばらく待った。

ちょうど僕はパソコンが置いてある机に背を向けていた。


そしたら後ろで誰かの声がした。


裕太ゆうたちゃん」


「え?・・・なに、誰?・・・」


まさかの聞き覚えのある声?

だから、僕はゆっくり後ろを振り向いた。

さっきまで真っ暗だったから振り向いたらホラーだったりするんじゃないかって

内心、不安だった。

僕はホラー嫌いなんだ。


ザンバラ髪の顔色の悪い女が、にた〜っと笑いながらこっちを見てたりして・・・。

でもいる・・・たしかにそこにいる気配を感じる。


「え?・・・ビスケット?・・・え?まじビスケット?・・・なんで?」


そこにちょこんと女座りして僕を見てるビスケットがいるじゃないか。

びっくりと、なんで?って疑問が僕の頭を何度も往復した。

なにこれ??


たしかに、そこにいるのは間違いなくビスケットだった。


「あの、すいません・・・もしかしてビスケット?」


ビスケットにソックリな子は、うんうんって頷いた。


「すいませんってなに?裕太ちゃん・・・他人行儀だけど・・・」


だってありえないだろ?PCの中のキャラが????

もしかして雷のせい?

まあ、雷はSFとかホラーなんかじゃクリーチャーなんかを蘇られるために

必要不可欠だけどね・・・。


PCの中のキャラが実体化して現れた・・・それは奇跡のような出来事だった。

ビスケットは周りをぐるっと見わたして、そして僕を見て言った。


「裕太ちゃん・・・私、パソコンから出ちゃったみたいだね」

「ちゃんと体に触れられるよ」


「みたいだな・・・僕はまだ信じられないんだけど」


「私も信じられない・・・これっていいことなの?悪いことなの?」


「僕にとってはいいことなんだと思うけど・・・」


「ならいいけど・・・」

「さっそくだけど、ハグしてみて?」


「え?・・・ハグするの?」


「うん、せっかくだから裕太ちゃんに触れてみたいから・・・」


「そう言うことなら、ぜひ・・・おいで」


僕はビスケットをハグした。

たしかに実体化したビスケットを確かめることができた。

体温もあるし、体もプニプニして柔らかいし・・・

人間と遜色ない感触・・・ビスケットはまんま一人の女の子だった。


自分が作ったキャラが目の前に現れて驚きしかなかったけど、しばらくして

それがいつの間にか嬉しさに変わっていた。

なにが起きたかなんてその原因も要因もどうでもよくなった。


デジタルの世界を自由に生きていたビスケット、雷のせいで現実世界に

飛ばされたみたいだ。

PCだけでしか会えなかった僕の彼女が目の前にいると言う事実。

だからこの現実を前向きに受け止めようと思った。


こんな現象、科学じゃ否定されるだろうけど逆に実体化したビスケットの

存在は科学だけでは証明できないことの証明だった。


もしかしたら昔の偉い科学者ならこの謎を解いてくれるかもしれない。


つづく。



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