TD-1592-Ⅲ 「もつれ」(3)
「気絶させたの? てっきりそのまま切り込むと思ったのに」
退避していたマーガレットが、ダンカンの隣に並んだ。
「俺をなんだと思っているんだ。必要な時以外は殺さないさ。後で実験記録を取らないといけないんだから」
少し間をおいて、ダンカンが口を開く。
「悪かった、マーガレット。俺の不注意でけがをさせた。すまなかった」
それを聞くや否や、マーガレットが怒り気味にこう返す。
「馬鹿にしないで! これは私の未熟のせい、あんたの責任じゃない。だから、もういい」
「……私、あし引っ張っちゃった」
「そんなことない。あの状況でパニックにならないだけで十分だ」
嘘ではない。ダンカン一人でも恐らく問題はなかったが、頭数が多い方がいい場面だってある。
「そう。話変わるけど、あの男の転送機、なんか見覚えない?」
そう言われて、ダンカンは手元に目をやる。ブルー・シャフト工業製、ダンカンのものとは異なる。
「そういや、この前の文脈転写機も、
「立ち入り検査の手配もする?」
「視野には入れておこう。ただまあ」
——すぐに、俺たちの仕事ではなくなるだろう。
男の身柄を調査員に引き渡した後、二人は支部への帰路につく。
「それにしてもダンカンって、よくあんなポンポンと技術道具を扱えるわね。
「それはまあ、長いからな。色々と、経験が」
マーガレットが不思議そうに眺める。
「『長い』って、うちで一番、入って日が浅いの、あんたじゃない。私もそんなに変わらないけど」
ダンカンは何もしゃべらない。自身の経歴を人に明かしたことはまだない。歯切れの悪さから何かを察したのか、マーガレットもこれ以上訊かなかった。
マーガレットが医務室から出ると、そこにクロードが立っていた。
「あんたが生身で現れるなんて……いやそんなに珍しいことではないわね。で、何?」
「見舞いに来たのさ。大変だったんだろう?」
「どーも。というか、なんで再生施術ってあんなに時間かかるの!」
「無茶言うなよ。義肢しか選択肢がない時代だってあったのに」
「いつの話よ!」
マーガレットは休憩所の椅子に腰かける。クロードは配給装置からカプチーノとカフェオレを取り出し、カプチーノをマーガレットに渡す。
「ありがとう。聞きたいことがあるんだけど、いい?」
「なんだい」
「ダンカンって」
名前だけ口にしたが、言葉に詰まった。
「いや……技術道具って、あるじゃない? あれって、使用者によってどのくらい性能が変わるの?」
「だいぶ変わるよ。人と道具の結びつき具合によって発揮できる性能が違ってくるから。代わりに、既存の技術では実現できないことが色々できるようになった」
「へえ。それは便利ね」
「そんなんじゃない。あれは本来技術道具が備えるべき機能を人間に押し付けているだけだ。甘んじているに過ぎないんだ」
クロードが力説した。
「技術はあんたの何なのよ……」
「生きる理由そのものさ」
「そうなんだ」
マーガレットはコーヒーを飲み干し、立ち上がった。
「ありがと。てか今更だけど、なんであんたは私にだけタメ口なのよ!」
クロードの方を向き、睨みつける。
「おっかないな。俺がここで一番気を許しているの、君だよ?」
そう言って、クロードも立ち上がった。
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