第4話 迷惑系Youtober

「視聴者みなさんこんにちは! アバクローです! 突然ですが、本日はTwittorで話題の赤城ゆうやさんの家に来て、ライブ配信を行っています」


 金髪髭面の若い男、アバクローをアップで映していたカメラが引くと、立派な数寄屋門を備えた和風建築の家が現れた。木の表札には「赤城」と書かれてある。


「ここ、ガチで赤城さんの自宅っす」


 表札を見て、コメント欄が俄かに騒がしくなる。


<赤城って実名だったの?>

<家、めっちゃ立派じゃん>

<どうやって特定したんだよwww>


「えー、この場所はですね~赤城さんの友人と名乗る方からDMで教えて頂きました。その友人の方も赤城さんの行方を心配しているので、俺が自宅に行って様子を確かめることになりました」


<警察より早いってどゆことwww>

<めっちゃ有能やんwwww>

<赤城ゆうやの自演を暴くってこと!?!?>

<ヒキニートを虐めるのやめてあげてwww>


「では早速、様子を見に行きましょう」


 アバクローは数寄屋門を躊躇いなく開き、赤城家へと入って行く。カメラマンも追従する。画面には手入れされた日本庭園が広がり、静謐さを感じさせる。何か事件が起こっている様子など、全くない。


 玄関の前に達し、アバクローは声を張り上げる。


「すみませーん! どなたかいらっしゃいますか~」


 反応はない。


「おかしいですね。すみませーん! 赤城ゆうやさんいますか~? もう自演するのはやめて、外にでましょうよ! 誰もあなたを監禁なんてしてませんよ! 自分で引き籠っているだけですよ……!!」


 されど、反応はない。アバクローはおもむろにドアノブに手を伸ばした。


<えっ、開いちゃった……>

<鍵かかってないじゃん……>

<入っちゃうの……!? 入っちゃうのか……!?>


 開け放たれた玄関の中をカメラが映す。広い玄関にはスニーカー、革靴、スリッパが一足ずつ、綺麗に並べられている。


「おじゃましまーす」


 アバクローは雑に靴を脱ぎ捨て、赤城家の探索を始めた。


<やべぇぇwwww>

<普通に住居侵入罪だろwww>

<いや、本人が助けてくれって言ってるから大丈夫じゃない?>

<本当にここにいるのか? 赤城ゆうやは>


「おっ、ここはキッチンですね~。冷蔵庫、デカいなぁ~。ちょっと開けてみたいと思います。赤城ゆうや、いる~」


 冷蔵庫の中は納豆や豆腐、ヨーグルトなど生活感に溢れた品が並んでいる。冷凍庫は冷凍食品ばかりだ。


「うーん。赤城ゆうや居ないっすすね~」


<いるわけないじゃんwww>

<まじめにやれwwww>

<てか本当に住人いないね。なんで?>


「本当、だれもいないみたいに静かなんですよね~」


 一通り一階を探索したアバクローは怪談の上へと狙いを定める。「ヒキニートの居場所は二階に違いない」と。


「さぁ、どれが赤城ゆうやの部屋だと思います?」


 カメラは二階にある、三つのドアを映す。どれも特に特徴はない。


<一番奥の部屋でしょ!>

<なんとなく奥の部屋な気がする>

<おぉぉぉぉおお! いよいよかぁああ……!!>


 視聴者の声に応えるため、アバクローは一番奥の扉に手を伸ばす。そして一気に開いた。


<きったねぇええ!!>

<アニメのポスター貼りすぎでしょ! だいたいこれ、いつのだよwww>

<赤城ゆうやって何歳? もうこれ、五十オタクの趣味じゃない?>


「いや~、この部屋足を踏み入れたくないわ~。何年も掃除してないっしょ~絶対。俺、汚いの無理なんだけど~」


<迷惑系YouTuberが贅沢いうな! 部屋に入れ!>

<てか赤城ゆうや、いないじゃん! 本人は?>

<どっか別の部屋で自演してるってこと?>


「仕方がないから入りますね~。あ~くっせえ」


 赤城ゆうやの自室だと思われる部屋に入り、アバクローは家探しを始める。行方についての手掛かりを見つける。という名目で。


「もうほんと、アニメと漫画とゲームしかない部屋っすね。ザ・オタクの部屋って感じです」


<押し入れ開けてみて!>

<押し入れヤバそうwww>

<アバクロー、開けろ!>


「えー、仕方がないっすね~。じゃー、視聴者さんのリクエストに応えて押し入れ開けます!」


 アバクローが押し入れの引き戸に手を伸ばす。


<あれ? 画面真っ黒だよ?>

<カメラさーん>

<なんか音声も途絶えたね>

<そんな衝撃的な中身だったの? 映せないぐらいに>


 結局その後、映像と音声が復活することはなく、そのままライブ配信は終了した。

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