第3話 〇〇大学オカルト研究部

「谷川先輩! ヒキニートがTwittor上で『監禁された!』って呟いてバズってるの、知ってますか!?」


 〇〇大学オカルト研究部が部室代わりに使っている喫茶店「モーパッ山」に相田みつ子の甲高い声が響いた。みつ子は黒髪ショートに赤のインナーカラーという今風の見た目をしており、活発な印象を与える。


 文庫本に視線を落としていた谷川は迷惑そうな顔をする。谷川は黒髪パーマに丸い黒縁メガネをしており、知的で落ち着いた雰囲気だ。


「谷川先輩! なんで無視するんですか!」


 みつ子は谷川が座る長椅子に勢い良く腰を下ろし、グイと身体を寄せる。みつ子は身体のラインがしっかりと出るニットを着用しており、豊かな胸の膨らみが強調されていた。


「これっ! 見てください!」


 スマホの画面を谷川の顔の前に持っていくと、溜息が生まれた。


「わかったよ。全くもう……。今、いいところだったのに……」


 文庫本をローテーブルに置くと、 谷川はみつ子のスマホを手に取ってゆっくりスワイプし始める。


「うわっ。赤城って人、ねずみ食べてるじゃん……。病原菌とか大丈夫なのかな」

「やばいですよね! これはもう、自演の域を完全に超えてますよね!」


 谷川の反応にみつ子は満足気だ。


「過去の投稿を見てもアニメや漫画の話ばかりで、なんかこーいう痛い感じの投稿はないんだよなぁ。本当に監禁されてるのかもしれない。東京都○○区の×××公園かぁ」

「私、午前の授業サボってこの公園に行ってみたんですよ!」

「どうだった?」


 みつ子はゴクリ唾をのんで、勿体ぶる。


「普通に小さな子供が遊んでいるだけでした。たまにTwittorを見てきた野次馬がいるぐらいです」

「まぁ、そりゃそうだよな。こんな監禁部屋があったらとっくに問題になっている筈だもんな」


 谷川はうんうんと頷くとスマホをみつ子に返し、読書に戻ろうとする。


「で、先輩。どうします?」

「どうしますって?」

「赤城さんが一連の投稿を始めて今日で三日目です。水はあるといっても、食料はマヨネーズとケチャップ、そしてドアの郵便受けの隙間から入ってくるネズミだけ。そろそろ助けてあげないとヤバイと思いません?」


 みつ子は谷川の顔を覗き込む。意思を確認するように。


「そこは警察に頑張ってもらって……」

「警察も場所が分からないと動きようがありません」


 更にみつ子の顔が谷川に近づく。


「えっ、みつ子はどうしたいの?」

「先輩、私達で赤城さんを助けませんか? 絶対これ、心霊的な事象が絡んでますよ。オカルト研究部の範囲内です。我々の領域です」

「いやでもなぁ」


 そう言って、谷川はローテーブルの文庫本に手を伸ばそうとする。しかし、その手はみつ子に阻まれる。


「先輩。本に逃げないでください。一緒に戦いましょう」

「なんだよ。戦うって……。大体、手掛かりとかあるの?」

「手掛かりは作るものです。私、さっき『赤城ゆうやさんを助けたい』って垢をXに作ったんです。その垢で広く情報求めています。何かしらは集まる筈です」


 みつ子は谷川の手を自分の前に持ってきて、強く握る。谷川の顔が少し赤くなった。


「わかった! わかったよ! 協力はする! 来月の△△大学との合同発表会のネタに困っていたから、今回の調査結果をまとめて発表することにするよ」

「やった! 道連れゲット!」


 二人は珈琲を飲みながら、赤城ゆうやに関する情報を集め始めた。

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