第4話
「で、誰かと待ち合わせか?ずっとここで立ってたけど」
なんとか右近さんの手からのがれるも、話かけられ続けている。
「いえ、自転車置き場がどこか分からなくて」
「ああ、そうか。こっちだ」
白い歯を見せてニカッと笑って自転車を引いて右近さんが歩き出した。
……これ以上一緒にいたくないとは思うも、流石に自転車置き場まで案内してくれるのを断ることもできずに、後ろをのろのろと自転車を引いてついていく。
できるだけ距離を取らないと。冤罪怖い。
って思ってたら、右近さんが振り返って立ち止まった。
「ごめん、早かったか?」
くっ。親切かよ!いいやつじゃないか!
「ご、ごめんなさいっ」
謝っておとなしく並んで歩くしかないよね。
まぁいい。今だけ。自転車置き場さえ教えてもらえば、これから先は関わらない。
うん。
自転車置き場は、校舎の裏の片隅にひっそりとあった。
なんだろう。門から見えない位置。
学校ぐるみで自転車を恥ずかしいとでも思っているのか!って思わせる位置。
そして、止まっている自転車はゼロだった。
うそでしょ。何なの、この学校。
「ここが自転車置き場だ。あっちに厩舎がある」
厩舎?
は?
まさか、自転車で通うのが恥ずかしい人は、馬にのって通学でもしてるってこと?
運転手付きの車で通えないなら、馬に乗って通えばいいじゃない!って発想なの?
「あそこが馬場だな。乗馬部とはここですれ違うこともあるだろう。自転車置き場はあとはほとんど人は通らない」
乗馬部……。
あ、そうですね。部活用の厩舎でしたか。
流石に、馬にのって通う人なんているわけないですよね……。
私の発想の方がお馬鹿さんでした。
「ありがとうございました」
自転車を止め、お礼を言って教室に向かおうとしたのに、右近さんはまだいる。
「じゃ、教室に行こうか」
「え?」
そりゃ確かにどこに教室があるのかもわからないけど、校舎にはいれば、教室にプレートとかあるよね?それで探せば大丈夫だし……。これ以上関わりたくないし……。
「同じクラスだよね」
はいぃー?
ま、まって、一緒に教室まで移動するだと?
一緒に教室に入るだと?
いやいや、それ、クラスメイトに初日からめっちゃ恨まれるイベントじゃん。
外部生の庶民が右近様に初日から迫ったとか言われる案件!
もう突っ込みどころ満載でしかないけど、無駄な冤罪は勘弁してほしい。
「あー、大丈夫です。あの、私……」
職員室に……案内するって言われそうだな。
体育館に……何しに。
忘れ物を取りに……間に合うのか心配される。
そうだ!
「トイレに!行きたいので!」
「あっ、ああ」
右近さんが顔を赤らめた。
「悪かった。えーっと、教室は、その……南校舎3階にある……から。あと、他に困ったことがあれば聞いてくれ」
と、どこまでも親切に教えてくれてから立ち去った。
いいやつだなぁ。右近さん。まぁ、前世のコンザージも悪いやつじゃなかったんだけど。
ヒロインと出会ってからおかしくなったんだよね。
私が断罪されて死んだあと、国はどうなったのかな。私は死んだ後に前世の世界がどうなったかは分からないんだよね。
右近さんが立ち去るのを見送ってから、昇降口へと向かって歩き出す。
本当に誰もいない。自転車通学者って他にいるのかな?
とぼんやり考えながら歩いていたら、走ってきた男子生徒とぶつかった。
「あ、すまない。大丈夫か」
よろけた私が転ばないように腕をつかんだ人物の顔を見て息をのむ。
やっべーやつだ。絶対にかかわりたくない西園寺。
「大丈夫ですっ。ちゃんと前見て走ってくださいね。私だからよかったものの、他の女性となら責任を取って結婚してくださいって言いだしますよ?」
「は?」
つかまれた腕を乱暴に振り払ってにらみつける。
は?じゃないわ!対して痛くもないのに痛いふりしたり傷一つないのに傷が残ったとかいいながら、責任を取ってとかいう女が世の中にはいる。って、なんで私、そんな忠告してるの?
別に責任取らされるなら取らせレればいいし。私には関係ない話だし。
背を向けて走り去る私の耳には「変な女」という西園寺のつぶやきは耳に届かなかった。
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