第1話 『裏』
わたしは村雨 蓮(むらさめ れん)、今を必死に生きるしがない中学生。趣味は散歩で特技は息を止めること。最高記録は2分40秒で今年中に3分を超えることが目標。それから―って何言ってるんだろう、わたし。
「現実逃避に意味なんてないのに」
わたしは今朝親と大喧嘩をしたのだ。喧嘩の中身は今考えると大したことではないけど家族とは元々かなり仲が悪く、学校が終わって家に近づいた今でも謝る気は起きない。
「…散歩しよ。」
無駄な足掻きであると知りながら家の近くの公園へと向かうことにする。
「………」
静かな周囲とは裏腹にわたしのなかの怒りの炎は音を立てて再燃し始めた。わたしは悪くないのになんでこんなに苦しんでいるのだろうか?
「………」
そうだ。悪いのはあっちなんだからわたしが謝る必要はないだろう。そうに違いない。
「………?」
…何か奇妙だ。静かすぎる。今は大体午後4時ぐらいのはずだ。何度かこの時間帯にここを通ったこともあるが車の通行も多く、かなり騒がしかったのを覚えている。…というかさっきから怒りで一杯になっていたせいで気が付かなかったがとんでもなく眩しい。
「………!」
目を開くとしばらく呆然としてしまった。
いつの間にか知らない場所にいる。
ここは…おそらく石の壁でできた部屋…なのだろうか?見た感じは出入り口どころか窓すらなさそうだけど…。あれ? 誰か倒れてる? わたしは倒れている人に駆け寄ろうとするが…
「…え? なにこれ?」
それは人間ではなかった。《今は》という条件付きではあるが。
唖然として言葉がでない…事は別になかった。死体を見るのは初めてだけど意外と何も思わない。
「こ、こんにちは。あなたはダンジョンマスターとして召喚されました。私はダンジョンコアのユウナです。」
そこへいつの間にか背後に立っていた赤髪の同年代であろう少女が話しかけてきた。
「こ、こんにちは? ここはどこ? ダンジョンってなに?」
振り向いて話しかけたが、無意識のうちにかなり動揺していたのかいきなり質問攻めにしてしまった。反省しつつも次に生かせば良いだけだと自分に言い聞かせる。
「ここはダンジョンの一室。コアルームだよ。この私は基本的にこの部屋から出れないからこの部屋には侵入者が来ないようにしてね。それから―」
「コア? 侵入者?」
またやってしまった。どうやらわたしには学習能力がないらしい。
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少女―リーナというらしい―は丁寧に状況を教えてくれた。
分かったことをまとめると
・ここはダンジョンの最奥のコアルームである。
・リーナはダンジョンコアであり、ダンジョンマスターであるわたしには彼女の姿が人に見える。
・もうすぐ冒険者と呼ばれる人たちがやってきてコアを壊そうとする。
・コアが破壊されるとわたしも死ぬ。
ぐらいだ。ほかにも色々言っていたけどわたしが理解できていないのを察して重要な事だけ教えてくれたみたいだ。
「…私は、何をすればいいの?」
リーナの話は一応は理解できたが具体的に何をすべきなのかは分からなかった。だから質問をしたのだが彼女は私のそばの死体を指さして言った。
「とりあえずその鎧を、着てもらえるかな?」
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