第7話 いきなり殺意まんまん
戦闘訓練の授業。
今日はホロじゃなくて組み手のようだ。
「はい、二人一組になってください」
うげっ、ヤな台詞。
さっさと大斗を捕まえよう……と思ったら、なにやら殺気を充満させて近づいてくる男が一人。
「おい、ツラ貸せよ」
千葉の目がギンギンに血走ってる。
やだ怖い、チビっちゃう……。
こいつ、朝の失禁――もとい失態の報復をここで済ませるつもりか。
ここじゃいくら殴っても合法だしなあ。
「おい大斗、俺と組もうぜ」
「悪いハヤテ。おれもう安達と組んじゃった」
「あー、そっか了解」
安達は頭がいいけど、運動神経鈍い。
下手に強い奴と当たったら怪我しそうだ。
大斗は加減が上手いから相手を任せても安心だ。
「じゃあ、朝比奈さん。俺と組み手しない?」
「て、テメェ無視してんじゃねぇよッ!!」
……さすがにスルーは無理か。
嫌だなあ。
こいつ絶対俺を殺すつもりだろ。
さすがにそこまでイっちゃった手合いとは組みたくない。
誰かいないかなー。
見回すけど、誰もいない。
「白河。お前は千葉とやりなさい」
「……はあ」
先生の命令にため息が漏れる。
「しゃーない。やるか」
「その太々しい態度も今のうちだ。テメェの化けの皮、剥がしてやる。泣いて謝っても許さねぇからな。死ぬ寸前まで追い詰めて、二度と舐めた真似出来ないようにしてやる!」
「はあ……あんま強い言葉使うなよ。弱く見えるぞ」
ブチンッ、という音と共に千葉が襲いかかってきた。
「いきなりかよ」
まだ訓練開始の合図も出てないぞ?
千葉の拳を躱す。
さすがSSRキャラだけあって、攻撃が鋭いな。
『マスター、ワタシが叩き潰しても?』
「お前は何もするな」
エルドラの殺意で背中が冷たくなる。
ここまで殺る気なのは千葉が俺を攻撃したせいか。
なんか目の色まで変わってるし……。
こいつに任せたら絶対消える。
いや、消滅(きえr)る。
物理的に、この世から一切合切なくなるに違いない。
位階Ⅰじゃ気づかなかったが、いまは感じる。
こいつ、めちゃくちゃ禍々しいぞ。
なんかカチカチ言ってるし……怖い怖い。
位階Ⅱになってやっと気配が捕らえられるって、どんだけ力の底が深いんだよ。
課金アイテムだと能力100%底上げするペットだったはずなんだが?
誰だよこいつに武力を付け足した奴は?
気を取り直して、千葉に集中する。
拳闘はメインじゃないけど、苦手ってわけでもないんだよな。
相手の攻撃を躱し、カウンターで腹に拳をたたき込む。
「ガハッ!!」
体勢が前のめりになったら衿を掴んで足を払って転が――す前に千葉が白目を剥いて崩れ落ちた。
えっ、あれ?
「……終わり?」
たった一発で終わってしまった。
みんな絶句してる。
俺もびっくりだわ。
まさか千葉がここまで弱いとは思わなかった。
だってSSRキャラだぞ?
こいつがいないと攻略が難しくなる敵だって居るんだぞ?
そのキャラが、たった一発の拳で落ちるとか…………ないわー。
「さっすがマスターです! さあこの無礼者にとどめをッ! 正義の鉄槌をッ!!」
「刺さないからな?」
簡単に命を奪おうとするんじゃありません。
この結果は一重に、俺が位階Ⅱに上がったからだとは思う。
でも、SSRキャラって基礎ステータスが高いから、レアキャラの位階Ⅱと同程度は戦えるはずなんだけどな。
攻撃は大ぶりだったし、フットワークは素人同然だったし。
いくら一年生っていっても、戦えなさすぎだろ。
俺、こんな奴のために金払ってガチャ回して、頑張って重ねてたのか?
なんか複雑な気分だ……。
○
翌日は土曜日で学校が休み。
安藤と大斗からの遊びの誘いを断って、一路ダンジョンへ。
位階Ⅱに体も慣れてきたし、一度本腰を入れてダンジョン攻略する。
前回攻略した階は、地上にある魔方陣ですっ飛ばす。
11階から先を慎重に進んでいく。
「10階までと違って、魔物の密度が少し高いか?」
『そのようですね』
これまでは2から3匹くらいだったが、ここからは5匹くらいまとめて襲いかかってくることもある。
とはいっても低級モンスターだから、そこまで脅威じゃない。
『マスター。右手よりゴブリンの群れが近づいてます』
「了解」
エルドラが索敵をやってくれるのがすごく助かる。
曲がり角から現われたゴブリンに、魔法弾を連射。
すべての頭を一瞬で破壊しつくした。
よしよし。
レギオンの扱いにもやっと慣れてきた。
この辺りはゲームとリアルで、特に重さが大きく違ったから、慣れるのに結構時間かかったな。
「おっ、トロルリーダーだ」
二十階の一番奥で、初めてのフロアボスに遭遇。
一応集団戦闘(レイド)推奨のボスだ。
といっても最大値まで強化した装備なら、ソロでも攻略出来る。
攻略出来なかったら、中身が悪い。
「よし、いっちょ試してみますか」
レギオンにマナを充填。
炎、氷、風、土の四属性を同時に発射。
前後左右から、初級魔法がボスに襲う。
「どうせこれじゃ終わらんだろ?」
続いてマナを込め、レギオンを前に据える。
なんの魔法にするか考えていると、
――ギギィ。
一番奥にある、下階に続く扉が軋みながら開いた。
「おめでとうございます。ボスを倒したようですね」
「…………あれぇ?」
「さすがマスター、初級魔法で瞬殺とは恐れ入りました」
「う……うん……」
いよいよ戦いらしい戦いが出来ると思ったのに、ほぼ一撃かよ……。
身体能力が位階Ⅹ以上あるから仕方ないんだが、めちゃくちゃ不完全燃焼だ。
まだ夢幻装備のスキルも使えてないし、そろそろまともに戦いたい。
「エルドラ、方針転換だ。急いで最下層を目指す。魔物の接敵と罠の感知を頼む」
『お任せください』
「んじゃ、行くぞッ!」
もっと潜れば強い奴なんてわらわら出てくるはずだ。
そこまで一気に駆け抜ける!
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