第4話
今日は
当時のデータはまだ残っていて、私が操作していたキャラ・フローラのレベルはカンストしていた。
こんなクソゲー、よくやり込んだものだと、今更ながら呆れる。でも、やり込めたのは
「あー! 耳が壊れるー!」
そうじゃなかったら、こんな酷いBGM聴きながらプレイできないって!
オプションから、BGMの音量を最少にする。消せたらいいんだけど、生憎ミュートの機能はない。なんだこのクソゲー!
「えっと、十時からだったよね」
時間は十時五分前。ゲーミングヘッドセットなんていう高価なものはないから、テレワークで使ってる安いヘッドセットをコントローラーに繋ぐ。
ドキドキしながら待った。
「……エミ?」
懐かしい。
そして、やっぱりPVのマルティンと同じ声だった。
私は口を開く。
「久しぶり、です。エミです」
出した声は少しだけ震えてしまって、ちょっと情けなかった。
「あ、久しぶり。
ぎこちない挨拶。十年ぶりだもの仕方ない。
私は、そのぎこちなさのまま、
「PS4、まだ持ってたの?」
ヘッドセットの向こうから、
「いや。エミからメッセージを貰ってすぐ、リサイクルショップに走ったよ」
「え? あ、そう、なんだ……」
「久しぶりに
「あの時の悪口なんだけどね、あれ、私じゃないの。私のTwitterのアカウント、誰かに乗っ取られてて……」
「うん、分かってるよ」
「……へ?」
意外な言葉に、私は気が抜けた。
「あの当時は、色々言われて病んじゃって、ほぼ全部のアカウント消したけど、後々考えたらさ、エミがあんなこと言うわけないなって思った。
受験が終わった後、新しいアカウント作ってTwitterに戻ったんだけど、エミのアカウントを見つけられなくて……」
「そうだったんだ……」
アカウントが私の手に戻った後、私はアカウント名を変えてフォロワー整理したんだった。プレステのアカウントもIDを変えて、以来放置してしまってた。
だから、
「それにしても、エミさ、俺のIDよく覚えてたね」
「飼ってたウサギが由来だって聞いてたから」
「ああ、そうだったね」
…………沈黙する。
気まずい。何を話そう。
……そうだ。
「アンロドのPV見たんだけど、マルティンの声って、やっぱり
確信はあったけど、確認したくてそう訊いた。
「うん。そうだよ」
やっぱりそうだ。私は思わず笑顔を浮かべた。
「おめでとう。
「いや、昔から目指してたわけじゃないんだ」
あれ? そうなの?
「アンロドやってた時にさ、お互い声あてて台詞読み上げながら遊んでたじゃん」
「あー、そんなことしてたね!」
「その時、エミが言ってくれたから。マルティンには、俺の声がぴったりだって」
私は驚いた。確かに昔、そんな遊びをしていた覚えがある。そして、確かに私はそう言ったことがある。でも、まさか……
「それがきっかけ?」
「そうだよ。だから、マルティン役は誰にも譲りたくなかった。誰にも、ね」
変わらないと思っていたけど、違った。
すごいなって、思った。
「それに、マルティンをやってれば、エミが見つけてくれるんじゃないかって」
ぽつりと聞こえたその声は、ノイズに邪魔されてかすれてしまった。
「え?」
だから、思わず聞き返した。
「いや、何でもないよ」
ノイズがかかっていたけど、ちゃんと聞こえた。
顔が熱くなる。十年前の初恋。ただそれだけ。
それだけのはず。
でも、失恋したわけじゃない。私は、まだ
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