第35話

「この世界で君に必ずまた会えると信じていた。だからこのドレスを作らせておいたんだ」

「私の……ために?」

「そう。庭に咲いている紫苑の花に色が似ているだろう?」


 オスカーが感慨深げに中庭の花壇へ視線を移す。

 光沢のあるドレスの生地は、紫苑の花と本当によく似た薄紫色だった。


「これを着て、ふたりで王様にお目通りしよう。正式に結婚すると報告しに」


 自分のような身分の低い者が王太子妃に?

 そんなことはありえないと思う反面、オスカーから真剣な眼差しを向けられたら、レーナは迷うことさえ許されない気がした。

 彼が誠実なのはよく知っているから。

 前世で煌太郎だったときも、全身全霊で桜和を愛し、守ろうとしていた。


「もう二度と離れたくないんだ」


 オスカーが愛しそうにレーナの頬をなでる。


「私もです。この先は、ずっとそばにいます」


 レーナをぎゅっと抱きしめたオスカーは、コツンと額を合わせて微笑む。

 やっと手に入れた幸せを噛みしめていた。


「ありがとう、レーナ。心から愛している」


 互いに溢れんばかりの恋情を捧げるように、ふたりは深い口づけを交わした。


 この先どんなことがあっても、ふたりなら乗り越えていけるだろう。

 秋麗あきうららに咲く紫苑と共に。



――――END.

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クールな王太子は一途に愛を待ち続ける~夢灯りに咲く紫苑~ 夏目若葉 @wakaba-natsume

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