第33話

 オスカーがレーナの両肩に手を置き、力強く瞳を射貫く。

 身分違いなのは明らかだけれど、桜和がどれほど煌太郎を愛していたか知ってしまったレーナは、素直にうなずくしかなかった。


「今度こそ幸せになろう。桜和と煌太郎の分まで」


 また会えた。――――運命の人に。ふたりの胸にこの上ないよろこびが込み上げる。

 オスカーはレーナを抱きしめ、情熱的に何度もキスをした。



 一週間後、あらためてレーナはフィンブル宮殿に呼び出された。

 大きな窓の向こうに紫苑が植えられた花壇が見える部屋で待っていたのは、王太子のオスカーだ。


「殿下が私をお呼びだとうかがったのですが……」


 レーナは部屋の入口付近でかしこまって頭を下げていたのだが、それを見たオスカーは足早に近づいていき、彼女の手を引いて椅子に座らせた。


「ふたりきりなんだから楽にして」


 王太子と使用人では身分があまりにも違うので、普通なら気楽に接するどころか話すのもはばかられる。

 しかし、至近距離から愛に満ちた表情で言われると、レーナはうっとりとして頬を赤らめることしかできない。


「まだ正式な沙汰が下されていないんだが、俺に毒を盛った犯人がわかった」


 あれから王宮内は普段の落ち着きを取り戻しつつあったけれど、役人たちが調査を続けているのはみんな知っていた。

 口には出さないものの不安な毎日を送っていたのだ。


「誰だったのですか?」

「使用人のマリーザだ」

「え?!」


 マリーザは体調不良で休んでいた調理補助係だ。

 彼女の抜けた穴を埋めるためにレーナが調理場の片付けなどを手伝っていたのだが……。

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