第24話
社交界がおこなわれる広間へ案内されて足を踏み入れると、上流階級の貴族たちがすでに集まっていた。
桜和と両親もその輪に混じり、お決まりのあいさつを交わしていく。
今日は洋装でと事前に言われていたので、和服姿の者はひとりもおらず、まるで異国に来たみたいだと桜和は緊張が増した。
「あら、桜和さん」
後ろから声をかけられて振り向いた先に、煌太郎の母が憮然とした顔をして立っていたので、桜和はあわてて頭を下げた。
「本日はお招きいただき、ありがとうございます」
「あなたのドレス、ずいぶん地味ね。まぁいいんだけど……」
桜和は母や千代と相談しながら、どのドレスを着ていくかに関しては相当悩んだ。
あまり派手に着飾って誰よりも目立ってしまったら、煌太郎の母は気に入らないだろう。
かといって、あまりにも地味なドレスを選んだら、貧乏くさいと言われるのは目に見えている。
結局迷った末、薄い紫色のドレスにしたのだけれど、やはり嫌味からは逃れられなかった。
だが桜和にとってはこれも想定内。愛想笑いをしながら「すみません」と謝っておけばいいだけのことだ。
「桜和は気を使ったんだよ。奥ゆかしいんだ。本気で着飾ったら桜和が世界で一番美しいに決まってる」
「煌太郎様……」
桜和の後ろに煌太郎が現れ、包み込むようにそっと肩を抱き寄せると、彼女の頬はあっという間に桜色に染まった。
額を隠すサラサラの黒髪、凛々しい眉、やさしさを含んだ黒い瞳。
タキシードを身に纏った煌太郎は背が高く、手足が長い。
こんなに完璧な男性は、どこを探してもほかにはいないと、桜和はあらためて惚れ直した。
「ほら、髪も肌もつやつや。美人だから和装も洋装も似合う」
煌太郎は両手で桜和の手をとって愛おしそうになでた。
それを見た母親は、ぎょっとして眉をひそめる。
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