第22話

◇◇◇


「お嬢様……お嬢様、起きてください。そろそろお支度の時間です」


 声をかけ、寝ていた身体を揺り動かしたのは使用人の千代ちよだ。

 彼女は今年で十五歳。伯爵の地位を賜っているこの菊地きくち家で、当主・江蔵えぞうの娘である桜和の小間使いをしている。


「頭のてっぺんからつま先まで、すべて手入れするように奥様から言われていますので」

「そんな大げさな。野宮家の宴に招かれているだけでしょう」


 呑気な声を出した桜和は身体を起こし、口を隠しながらあくびをした。

 今日は公爵家である野宮家で社交界が催されることになっており、菊地家も桜和とその両親の三人が招待されている。


「なにか隙があれば野宮家の奥様から嫌味を言われるかもしれない、とうちの奥様が仰っていましたよ?」


 野宮家の嫡男である煌太郎と桜和は、つい先日結納を済ませて婚約をした仲だ。

 半年後の春にふたりの結婚式がおこなわれる予定になっており、野宮家と菊地家は姻戚関係を結ぶことになる。


「煌太郎さんのお母様は厳しいものね。それに、私は嫌われていそうだし」


 自虐的に苦笑いを浮かべる桜和を見て、千代は眉を八の字にして悲しそうな顔をした。


「昨晩も夢を見たのですか?」


 千代の問いかけに、桜和はふるふると首を横に振った。

 桜和は時折、未来を予見するような夢を見る。子どものころからそんなことがあったため、自分だけが特別だと気づいていなかったのだ。

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