第21話
ふたりの目の前には、薄紫色の花が一面に広がっている。
レーナはふと、フィンブル宮殿には花が咲いているという噂を思い出した。
『王太子様が中庭に植えさせたんだそうだ。どこか東方の国で種を手に入れたとかで。珍しい紫色のアスターだってさ』
たしかクリスもそんなふうに言っていたな、と。
「君は予知夢を見ることができる。でも、異国の夢に関しては違う。それは……前世の記憶だ」
「……前世?」
「これは誰も知らないことだが、俺には前世の記憶があるんだ」
わざわざフィンブル宮殿にまで連れてきて、オスカーが意味不明な冗談を言ってからかったのだとは、レーナには思えなかった。
とても真剣に、切ない瞳でレーナを射貫きながら伝えてきたからだ。
「俺たちはこの国、異世界で転生したんだよ」
「な、なにを仰せなのかわからないです」
「転生前は日本という国の、明治の世にいた。俺は君と恋人同士で婚約していたんだ。この花にも見覚えがあるだろう?」
矢継ぎ早に言われても、レーナは混乱するばかりだった。
前世の自分がオスカーの婚約者だったなんて、信じられるわけがない。
けれどオスカーの言うとおり、目の前に咲き誇っている薄紫色の花には見覚えがあった。
夢の中で作っていた押し花は、たしかにこの花だったのだ。
「おそらく思い出せる。頼む、どうか思い出してくれ」
「夢で、押し花を作っていました。コウタロウ様からいただいたから大事にしたい、って……」
「俺がコウタロウだ。
オスカーから“桜和”と名前を呼ばれた瞬間、頭の中でなにかの回路が繋がったように、怒涛の如くさまざまな情報が押し寄せてきた。
それはおそらく、――――前世の記憶。
混乱とともに眩暈がして、レーナはその場で意識を失ってしまう。
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