君が風を整えて
@2024l8
教室
筆箱を鞄に押し込む音。
ブレザーに腕を通す音。
椅子がキュッと動く音。
それらの音をかき消すように
その声は今日も教室を満たす。
「では、これで終礼を終わります号令よろしく!」
皆ばらばらと号令がかかる前に立ち上がる。
「きりーつ」
空気がすこし変わる。
ここで皆が真っ直ぐに、ピタッと直立していなければ先生は必ず
「もっかいだなこれは!」と
何故か楽しそうにやり直しを命じてくる。
それが何よりも無駄な時間であることはこの教室にいる誰もが分かっているからだった。
「礼。」
よし、今日は少し時間を節約できた。
こうした小さな時間の余裕は、
私の心にも余裕を恵んでくれる。
今週は、5日間連続で放課後の貴重な十数分を
掃除当番の仕事に費やさなければならない
掃除当番weekである。
頑張るスイッチをいつもよりほんの少し長く
起動させておけば終わる。ただやればいい。
そう言い聞かせながら、学校モードで少し
肩に力が入っている自分をはやく解放したい。とはやる気持ちを落ち着かせる。
今日はどこへいこうかな。
黒板消しを手に取る。
「水ちゃんー!」
ああ、
私をこう呼ぶクラスメイトは一人しかいない。
「どうしたの!」
「ほんとごめんあのさ、今日の炎色反応の
実験の時ここ、これって何色になってたっけ」
理科のプリントをペンでコンコンと指しながら申し訳なさそうに、でもそれなのに愛らしく私の目をみつめるこの子は優波ちゃんといった。
「どうだったっけ確か青?」
「ああもう、ほんとにありがとう
ごめんね手止めさせちゃった」
「全っ然いいよ!またあしたね」
「またあしたー!」
満面の笑みで手を振る優波ちゃんをみて、
またこの疑問が頭に浮かぶ。
彼女ほど人とコミュニケーションをとるのが
上手い子はいるのだろうか。
彼女はまるで魔法使いみたいなんだ。
いつだって誰かといる。
彼女と話せない人はいない。
彼女がいるだけでその場の
空気が少し柔らかくなる。
これら全てはきっと彼女自身の人生経験から
うまれた優しさと強さで、
出来上がった現在に過ぎないのだろう。
優波ちゃんとは雑談をする仲でも無ければ
一緒に帰ったりする仲でもない。
けれど私は彼女を尊敬している。
私も誰かに尊敬してもらえるような心を
育てたいなとおもう。
けどそこに「優波ちゃんのように」
という文は続かない。
私は私らしく生きている自分を大切にしてくれる誰かと一緒にいたいとおもうからだ。
黒板を消しながらそんなことを考える。
「みんな掃除ありがとうそろそろ解散でいいよ!」
先生が5班全員に向けて言った。
気づけば終礼が終わってから
10分も経っていた。
残りあと20センチ程の黒板を埋める数式を
消せば、今日の私は自由になれる。
自然と黒板消しを動かす手がはやくなった。
「水川、めっちゃ黒板綺麗だな!ありがとう」
振り返ると、
ありがとう!!!と顔にデカデカと
書いてあるかのように明るい表情をした
先生と目が合った。
「ああほんとですか!よかったですありがとうございます」
そう言いながら自分の机へ戻る。
「明日もよろしくなー!おつかれ!」
「もちろんですよおつかれさまです!」
荷物を背負い教室の外へ出る。
一日おつかれ自分。
さて、今日はどこへいこうかな。
君が風を整えて @2024l8
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