雪の日の交差点

イチモンジ・ルル(「書き出し大切」企画)

 七端市はめったに雪が降らない温暖な街だ。

 けれど、その日は前夜の予報通り、雪がしんしんと降り続いていた。神崎寺三実みみは、母に「自転車は危ないからバスで行きなさい」と言われたが、早起きして徒歩で学校に向かった。


 三実は交差点を目指す。そこは、別の高校に通う田代谷幸太の自転車と毎朝すれ違う場所。彼との会釈は、三実にとってささやかな毎朝の楽しみだった。


 彼は賢いが口下手で、損をしているタイプだった。三実の脳裏に、そんな彼を見かねてかばった中学時代の思い出がよぎる。「こんな日にいるはずないよね」とつぶやきながら、交差点に向かった。


「あ……」


 そこに幸太がいた。寒さで赤くなった顔が、マフラーに半分隠れている。三実の胸が高鳴る。


「おはようございます」

「おはよう……」


 幸太が小さな声で言う。久しぶりの会話だ。


「俺、話すの苦手なんだ」

「うん、知ってる」

「でも、今日は言いたいことがある」

「え?」


 幸太の顔がさらに赤くなる。


「1年生の5月、神崎寺さんとすれ違った。それから、毎朝、会えるように、その時間に合わせてここを通ってた」


 その言葉に三実の頬が熱くなる。


「でも今日は雪だし、バスで行くかなって思った。でも……会えたら、伝えようと思ったんだ。」


 三実は思わず、喜びを込めて幸太を見つめた。幸太はそのまなざしを受け止めるように微笑んだ。ふたりはしばらく向かい合い、雪の中で見つめあった。


 後に夫婦となったふたりは、雪の日には必ずこの日の「告白」のことを思い返す。

「あの時、雪のおかげでお互いの気持ちがわかったんだよね」と三実が言うと、幸太は静かに「そうだね」と答える。ほんの少しだけ、顔を赤らめて。


 彼は相変わらず無口だったが、大切なことはいつだって伝えてくれるのだ。

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