第16話

新たに意思を固めた俺はやる気に満ち溢れていた。もう誰が何を言ってきても対応できる、そんな気がしていた。だから今日は朝から5’s Hとかその他女子に突撃されても大丈夫だと息巻いていた。


「宮下くん、おはよー。ねぇ、宮下くんって呼びにくいから零ちゃんって呼んでもいい?」


「本木さん、おはよう。名前は呼びやすいのでいいよ」


「ありがとー」


そう素直にお礼を言い、軽く頬を赤く染める本木陽菜は可愛らしかった。しかしまぁ、零ちゃんね。前の時付き合った彼女を思い出してしまって、脳内が憎悪に一瞬染められる。


「零ちゃん?どうしたの、怖い顔して…嫌なことがあるときはお菓子食べるといいよー。はい、チョコあげる」


穏やかな笑みを浮かべたまま、チョコを差し出され心がふんわりとあったかくなる。


「あ、りがとう」


「零ちゃんはイケメンさんだから笑ってた方が似合うよー!」


自分のえくぼに両人差し指を当てながら、にぱーと笑う彼女を見て俺も元気になった気がする。俺はイケメンではない、という気がするが言われる分には気分が悪く無いから言わせておこうと思う。


「励ましてくれてありがとう。ところで本木さんは俺になんか用事があったの?」


「あ、忘れるところだった!零ちゃんにお願いがあるの!!」


「お願いって何?」


首を傾げていると、もじもじしながら俺に手招きをしてくる。これは、小声で言いたいから耳貸してくれっていうジェスチャーか。


「あのね、陽菜のお話し相手になってほしいの。時間制とかでお金とるなら渡すしっ!」


なんだそんなことか、と思う。話し相手くらい全然なれるし、お金だっていらない。前世兄妹もいなかったし、妹ポジションに収まってくれたらなんか萌えそう。俺は本木陽菜に対してにっこり笑いながら、返事を返す。


「もちろんいいよ。それにお金なんて払わなくていいから、普通にクラスメイトとして接してほしいな」


「零ちゃん…!ありがと!!じゃあメッセ交換しよー」


こうして俺は5’s Hの1人、本木陽菜の連絡先をゲットしたのだった。予鈴がなり、皆が席に戻って行く。俺も目の前で連絡先を交換できたことに喜ぶ本木陽菜を返そうと思い立ち上がった時。


「零ちゃんありがとっ!また後でねー!!」


そう言って俺の頬にキスして去っていった。隣の席の中山晴果がギョッとしてこっちを見ていたが、そこまで驚くことか。この間は自分から俺のこと見定めてやるみたいなこと言っといて、それはどうなんだろうか。ともかく、本木陽菜と喋る時間は苦痛にならなさそうで良かった。手にはさっき貰ったチョコレートの包み紙。


(チョコ…美味しかったな)


きっと根はとてもいい子なんだと思う。あのタイミングで俺の内部まで観察して踏み込んでこれるんだから、きっと気配り屋なんだろう。これからは、キスフレみたいな感じにならずただのクラスメイトとして仲良くなれたらいいなと思うのだった。

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