第16.5話 裏側で
「そろそろ終わるとこだけど、いやーすごいね。終盤なのに一人も死んでないよ。それどころか全員無傷なんだけど」
「……レインさん、真面目にやってください。終わってからが大変なんですから」
モニターだらけの部屋で、レインは、数名の《今際》職員と話している。
八つのシアタールームの内部を映すモニターには、第一でしんみり会話する二人と、第二で張り詰めた空気で捜索する三人。
「それにしても、思っていたより順調ですね。メシアの前情報を聞いた時、最悪ゲーム中に反乱を起こすかと思いましたが、そんなこともないですし」
「ゲームの性質上、そうならないんだよ。逆に言えば、そうならないゲームを選んだんだけど」
「と、言いますと?」
「ハナから別行動にメリットのあるゲーム。探すところが八つもあるんだからさ、どんな心配性でも二手に分かれようとするよ。命が賭かってる以上、早く終わらせたいと思うのは普通のことでしょ」
「そういう意味ですか。それにしても、画面越しのメシアから運営への敵意は感じられませんが」
「あぁ、それはそうだよ。あの子は主人公だからね」
「は?」
「悪虐非道の悪者なんかより、困ってる一般市民を助けちゃうものなの」
レインの会話相手である五課職員チャチャは、上司の意味わからない一言に引き気味であるものの、会話を続ける。
「まぁ、それは置いといて。二回目なのに妙に冴えてますよね、センスでしょうか?」
「自分が死ぬとわかれば恐怖するのに、それを覚悟で持ち直す。仲間が死ぬとわかれば、無意識に冷静を維持する。たしかに才能だけど、途中まではちゃんとビビってたし、冷静になるってのはプレイヤーには必須だから、遅かれ早かれって感じ」
「ユタカはご覧の通りですがね」
チャチャの視線の先にある第二シアタールームの映像を、レインも見る。
啖呵を切るまでは良かったが、いざ捜索が始まればクロメとラデンの後ろで縮こまっている。俯瞰しているから見えるものの、当の本人たちは気づいていないだろう。
「あの子は……なんて言うのかな、典型的な周囲比較劣等感ちゃんだよね。自分以外がすごい人間に見えてて、逆に自分だけが不出来に見えてるんだよ。いやぁあの手の子を見てると愉快になれるよねぇー、自分が生きてて良いんだって思える。まぁ死にたくなるほどの劣等感なんて一回も感じたことないけど」
(相変わらずクズだなこの人)
「かっこよく発破掛けたのは、半分は自分に言い聞かせるためなんじゃないかな。怖くないぞって」
「……毎度思いますけど、ちょっと見ただけで良くわかりますね。しかも、そんな的確に」
「怪我してる人が怪我してる部位って、歩いてる姿だけでも何となくわかるでしょ? 心だって同じでさ、弱ってれば言葉と話し方に出るくない?」
「病んでるなぁとか、メンブレしてるなぁとか?」
「そうそう」
(にしてもイカれてるでしょ、それできるの。人間観察スペシャリストかよ。キモ)
「ラデンちゃんも似たようなもんだけど、そこは経験の差かな。怖いからこそ必死になるのは、プレイヤーとして至極真っ当だよ」
「五人中唯一のミドルですからね。性格には多少難ありですが、ゲーム難度から見れば彼女にとっては楽勝でしょう」
「そしてもう一人の問題児は……」
レインの視線が、第一を映すモニターの、一人だけを捉える。
一目見れば視線を外すことを許さぬ、天性の美貌を持つ、誰もが知る女優。
「はぁー、マジ綺麗だなぁシャレたん。チャチャちゃん見た、この前公開されたシャレたんの映画」
「シャレたん……」
「私、友達に誘われて見に行ったんだけどね。シャレたんの人気に便乗したアイドルの演技が下手すぎて、逆にシャレたんの演技が際立ってたんだー。顔売りじゃなくて本物の役者さんなんだろうなぁ、あー死んでほしくねー」
「レインさんも、そんなこと言うんですね」
「そりゃね。こうなると思って有名人の参加は無しにしようってボスに言ったんだけど、逆にアイドル的な存在にできるでしょって却下されたんだぁ。だから今、絶賛喧嘩中」
(……ボスと喧嘩とか、古参メンバー怖)
「クロメはどうです? 何かありますか?」
「んー、良くも悪くも、かなぁ。凡人なりに頑張ってる真面目ちゃん。だからって努力は報われないし、才能には勝てないけどさ」
「……嫌なこと言いますね。でも、その言い方じゃクロメも主人公ぽくないですか?」
「チャチャちゃんわかってないねー。主人公に必要なのって、最終的には絶対的な正義感と善心だけ。どっちかが欠ければ、それはもう偽善かお節介だよ」
「……そうですか」
くだらねぇ、と心の中で吐き捨てて、チャチャは会話を区切る。
そのつもりだったのが、空気を読むなんて大人しい真似ができないレインは話し続ける。最早、独り言に近い。
「ゲーム終わりまで残り三十分ってとこかな。チャチャちゃん、このゲームで何人死ぬと思う?」
「不謹慎ですよ」
「良いから良いから」
「ゼロ……と言いたいところですが、流石に一人は死ぬでしょう。第二に仕掛けた罠か、もしくはレーザーか」
「チャチャちゃんの頭の中だと誰が死んだの?」
「……言いたくありません」
「優しい子だなぁ。もし私が純真無垢だったら惚れちゃってたかもしれないぜ」
(心中汚濁がなんか言ってらぁ)
「まぁ最初から私が話したいことだけ話すつもりだったから、それでも良いんだけどさ」
(これ私必要なくない?)
「考えるべきなのは、誰が一番死にそうかじゃない。誰が死んだらどうなるか。いるじゃん、死んだら面白くなる子が」
「誰です?」
「——ちゃん」
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