第12話 最悪な予想
第五シアタールーム。下段。
メシアは警戒しながら階段を下りる。一番下に着いて、ひとまず息を整えた。
ざっと見たところ、トラップの作動スイッチらしきものはない。宝箱もだ。
まぁ、運営がすぐ見つかる場所に鍵を設置するはずもないので、スタート地点である第七から近い第五と第八、つまり現在捜索中の二つはあくまで確認のためだ。
「ふぅ、やるか」
席の下、席と席の間、階段通路、スクリーンの下。トラップに注意しながら、隈なく調べるが、変わったものは見当たらない。
もう一度ざっと見回して、上段にいるシャラクへ声をかける。
「こっちありませんでしたー!」
「……ん。ならこっち来て」
手伝えってこと?
そんなことを思って階段を上る。見落としはないだろうが念入りに探したわけでもないのだから、シャラクより時間を費やした方が良かっただろうか。
客席ではなく階段通路に出たシャラクの、三段下でストップの合図が出た。
「えっと、どうしました?」
「あれ見て」
客席側を見ているシャラクは、メシアとの会話ですら視線も顔も動かさず、ただ一点をじっと見続けている。
一段上って、体を傾けて客席側を見る。一見すれば、何も無いように見える。
ただ、シャラクがあぁ言った以上、何も無いとは考え難い。あるはずだ、メシア一人であれば絶対に気づけないトラップが。
その時、中央辺りの足元に、何かが光ったのが見えた。光源として光ったのではなく、スクリーンの光を反射したのだろう。
「……ワイヤー?」
反射さえしていなければ捉えることはできなかったであろう細さのワイヤーが、丁度、足首あたりの位置に設置されている。
踏んだり引っかかったりすれば、命を脅かす何かが起こるはずだ。
「こんなのは序の口。出口に近いシアタールームになれば、作動スイッチを見つけることなんてできないと思った方がいいよ」
「……なんで私を呼んだんです? 別に、教える必要なくないですか?」
低い声で「は?」と聞こえてきて、メシアは前言撤回する。
「あ、ありがたいとは思ってますけど、少なくともシャラクさんにとってはメリットないんじゃないかなぁーって……ね?」
「知り合いになっちゃった人間が死ぬのは、誰でも良い気分しないでしょ。一期一会なんて言うけど、たった一回会っただけの相手に思うことなんて、精々これくらいじゃん」
「……そうですか」
たった一回。
メシアは確信する。シャラクとメシアとでは価値観が違う。
そのたった一回に、理由と友情を付け加えてしまうメシアは、一度に複数名の参加者がいるデスゲームにおいて、圧倒的な不利となる。今日初めて会った仲間を、本気で助けたいと思ってしまうのだから。文字通り、命を賭けてでも。
「こっちも終わったし、次のとこ行こっか」
「はい。こっち側は奇数番なので、第三シアタールームですね」
トラップを無視して、二人で通路へと向かう。すると、斜め前の第八シアタールームから、他の三人が顔を出していた。あちらも探索が終わって、次のシアタールームへと向かうところだったらしい。
そこで、違和感に気づいた。
メシアたちが見た時、レーザーが第八シアタールームから出口へと向かったタイミングだったのに、一人として次のシアタールームへ行こうとしなかった。
何事だと思い、三人が目で追ってるレーザーを見た。先程まで一本しかなかったそれは、三本に増えて、心なしか往復スピードが速くなっている。
それを見て考えたメシアの最悪な予想は、残念なことに当たっていた。
「これ、もしかして……」
「ねぇ」
メシアがクロメたちへ確認しようとした直後、シャラクが同じ質問を投げかける。
「そっち、トラップ作動した?」
「いいえ、作動スイッチを見つけることができましたので、回避しました。そちらは?」
「同じく。てことは、嫌な方だね」
「えぇ、最悪です」
二人の会話を聞いて、確認するまでもなくなった。当然ながらラデンは気づいているだろうし、ユタカも、自力で気づけなかったとしても他二人から聞いただろう。
このゲームについて五人がわかったこと。
一つ。鍵を探して出口まで目指す、捜索脱出型のゲームであること。
二つ。通路のレーザーと、スタート地点である第七シアタールーム以外に一つずつ、計八つのトラップがあること。
そして三つ。シアタールームを捜索する毎に、レーザーの数と速度が上昇すること。
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