第10話 チーム分け

「では話を戻しまして」


 プライベートを侵害しない範囲で少し話し合って、今まで通り、クロメが仕切って本題へ。即ち、デスゲームの攻略。

 実のところ、話し過ぎたのが良くなかったようで、《お客様》の意思か、それとも運営の意思か、スピーカーで注意が入った。

 メシアの担当だった女性の声に似ていたが、今、それを確かめる術はない。

 

「見てわかる通り、ここが映画館というのはまず間違いないですね。それと、他がどうかはわかりませんが、少なくともこのシアタールームにはトラップは仕掛けられていませんでした」

「もう調べたんですか?」

「えぇ、メシアさんが起きる前に。その時あなたも見つけてたんですけど、運営の睡眠薬って自然じゃないと起きれないくらい熟睡させられるから、起こさなかったんです」

「へぇ」


 メシアとシャラクが起きる十分ほど前に三人は起きていたらしく、軽く自己紹介してから散策を始めていたらしい。

 つまり、さっきの自己紹介コーナーは遅めに起きたメシアとシャラクのための茶番だったと言うわけだ。


 その十分でわかったことは三つ。シアタールームから顔だけ出して、外の様子を確認したのだそうだ。

 一つ目は、ここが第七シアタールームで、通路の両壁に四つずつ、全部で八つのシアタールームがあるということ。

 二つ目は、通路の突き当たりにある入り口もしくは出口に、これでもかと言うほど目立つ錠前が設置されていたこと。

 三つ目は、目測十メートル幅の通路には、何かの映画で見たような、人体を切断できるレーザーが一本、片道毎に形を変えながら、ゆっくりと移動していること。


「おそらく、捜索型のゲームでしょうね。鍵を探して外に出ればクリア」

「ここにはなかったですし、別のシアタールームのどこか、と言うことですよね?」


 ユタカがクロメは質問する。同じ二回目として、確認も兼ねたその質問が、メシアにとっても不確定だった要素を明確にする。

 命を賭ける以上、ほんの小さな疑念ですら命取りになりかねない。


「えぇ、おそらくですが。でも運営は意地悪なので、実は通路にありましたテッテレーンなんて事もままありますから、先入観にとらわれ過ぎないように」

「ありがとうございます」

「それと、敬語じゃなくていいですよ。なんかユタカさん、話しにくそうですし」

「え、そうですか? あらー、無意識だったなんて恥ずかしいわぁ」


 おっとり。なんか、おっとりだ。それしかユタカを表す言葉が、メシアには見つからなかった。

 あ、もう一つあった。えっちぃ〜。


「他に何かありますか? あ、ワタクシよりラデンさんの方が詳しいと思うので、何かあればラデンさんに聞いた方がいいか」

「えぇっ!? 私ですかっ!?」

「そりゃーね、ラデンさん以外ビギナーですし。まだ二回目のお二人も、回数重ねたプレイヤーの方が信用できますよ」

「が、頑張ります……」


 ギュッと胸の前で拳を握り、覚悟を決めたらしい。デスゲームが開始しているというのに、覚悟を決めるのがここで良いのか。


「では鍵探しについてですが、これは二手に別れた方が効率的でしょう。トラップも、人数が多いほど、回避が難しくなりますから」

「そ、そうですね。私もそれで、はい、賛成です」


 トラップは、基本的に作動スイッチにより作動する。運営からの手動でないため、プレイヤーの何らかの行動で作動し、狙うのも作動したプレイヤーである。

 しかし、数が多ければ、誰かが作動させ、それが別の誰かに当たる可能性が生まれる。他人のせいで、死ぬ可能性が生まれる。


「先達のお二人が言うのなら、私も異論ないわ。まぁ、少しばかり寂しくはあるけれど」

「私も大丈夫です」


 メシア、ユタカが答え、四人の視線が黙ったままのもう一人へと向けられる。


「ん、あたしもそれで良い」


 シャラクは、興味なさげに答える。それは、実力を過信しているからか、自分の死が想定できないからなのか。

 ただ、自分が五回目の時に、シャラクと同じような余裕を持てているのか。それだけが、メシアにとっての不安だった。


「チーム分けは、順当にいけば、ラデンさんチームと、ワタクシとシャラクさんチームで、残るお二人を一人ずつ、という感じなのですが」

「えっ、私は二人チーム確定ですかっ!?」

「ですよね〜」


 困ったとような顔で、クロメが首をひねる。

 経験豊富とはいえ自信のないラデンを、二人きりチームにするのはどうだろう。もちろん、メシアならば緊張させないよう取り計らえるし、ユタカもそうだろう。ただ、他人の影響でラデンの短所を完全に解決できるわけでもない。

 中途半端に短所を改善しようとすれば、それが失敗の要因となる。

 ここは、ラデンを三人チームにして、二人きりの状況から遠ざけた方が、本領を発揮できるはずだ。

 本人もこんな反応だし。


「ではワタクシが二人チームを」

「いや、あたしがやるよ。そっちの方が、気が楽そうだし」

「そうですか……ワタクシとしてはありがたいですが」

「ん」


 クロメとシャラクの価値観は真逆に等しかった。

 三人チームであれば視界は広がるが、やはりトラップの作動確率も高まる。二人チームであれば、注意するのが一人で良くなるため互いが作動させた事にも気づけるが、しかしピンチになれば心許ない。

 その上、どちらのチームを選んでも二回目プレイヤーが付いてくる。

 シャラクは、勝手のわからないビギナーにトラップを作動されるより、いざという時の力不足を選んだ。作動させなければ良いだけなのだから。


「よ、よかったぁー……」

「では、後はお二人ですね。公平にじゃんけんにしましょうか、勝ったらシャラクさんチーム、負けたらラデンさんチーム」

「わかったわ。勝つわよ〜」

「私も勝たせてもらいます」


 デスゲームの最中とは思えない。

 下心のみの二人、勝者は。


「よっし!」

「あー、負けちゃったぁ。まあラデンさんいるし、どっちも安全ってことには変わりないのだろうけれど」

「シャラクさん、お願いしますね」

「あんたか……ハズレクジ引いちゃったな」

「何とでもどうぞ」


 メシアがニコニコして、既に疲れた様子のシャラクを見る。やはり、というか、いつ見ても美しい。

 なんなの女神なの? 


「では、シアタールームの入り口まで参りましょうか。レーザーやら出口やらは、実際に見た方がわかるでしょうし。そしたら二手に分かれて捜索開始。こんな感じでよろしいですか?」

「は、はい」

「大丈夫よ」

「頑張りましょうね、シャラクさん」

「足引っ張んないでよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る