第3話 前線とクリスマス

どす黒い凍土に兵士の遺体が散らばっている。


佐久間颯太さくまそうたは自分の真上の上空に、蜂のような音を立てて制止する小型ドローンを見上げていた。


右手は奇妙な角度に折れ曲がり、左手の手首から先がない。もうこのドローンを撃つことはできない。


他国の少年か少女があのドローンを操縦しているのだろうと、佐久間はぼんやりと思う。


生きたいとあがく切望をあきらめが凌駕する。


俺たちはこの時代を止めることができなかった。


仕方がないのだ。


ただ、妻と娘の凛果りんかにもう一度だけ会いたかった、と、自分の顔めがけて落ちてくる手榴弾を見つめながら佐久間は思った。







凛果はコミュポセンターに接続し、幾つかの商品をスクロールした。

この1週間ほどドローンバトルを頑張ったのは内申点のためだけではない。


戦地にいる父親がクリスマスには帰ってくるから、コミュポを貯めて何かプレゼントを買ってあげたいと思っていた。


この、前から欲しがっていたダウンジャケットがいいかな。ちょっと高いけど。


かのんと一緒にゲームスポットを出ると、サンタクロースの衣装を着たおじさんが小さい子に風船を配っていた。


街には陽気なクリスマスキャロルが流れている。


凛果は余りのポイントでかのんとファストフード店に入ることにする。





超限戦の一環として、バトルフィールドマトリックスが敵の出資するハッカー集団によってしばしば「混線」され、ドローンが味方を攻撃する例が多発していることを人々はまだ知らなかった。


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2060年のクリスマスキャロル 赤宮マイア @AkamiyaMaia

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