試験の結果は

たい焼き。

この試験は

「それでは、始めてください」


 試験監督が試験開始の合図を告げると共に、目の前にあったA4の紙をひっくり返す。そこには問1から20まで番号の振られた問題が並んでいた。


 制限時間は何分だったかな……。よく試験監督の話を聞いていなかった。


 自分の周りでは、カリカリと用紙に問題を解く音が聞こえてきた。



 まずい。自分も早く問題に取りかからなくては。


 焦る気持ちを落ち着かせるように一度深呼吸をする。



 周りの音に気持ちを引っ張られないようにして問題に集中する。




 それからどれくらいの時間が経っただろうか。

 30分程度かもしれないし、もう少しかかったかもしれない。


「試験終了です。筆記をやめてください」


 ちょうど、最後の問題の解答を書き終わると同時に試験監督から終了の合図が言い渡された。


 ギリギリすべての問題を解答することができた、とホッとする。

 問題を解くのに集中していたせいか、頭と目の奥が痛い。


 目頭を押さえるようにしながら両手で目を温めて、一度、二度と深く呼吸を繰り返す。軽く目の周りをマッサージしてから目を開けると、だいぶ目がスッキリして視界がクリアになった。


 さっきまで、机に向かって問題を解いていたはずなのに、目の前から机がなくなっていた。


 自分が少し目を瞑っている間に誰かが片付けたのだろうか。

 でも、片付けるような音……聞こえなかった気がする……。


 周りも確認しようとキョロキョロとうかがう。



 周りには誰もいなかった。


 四方を真っ白い壁に囲まれた中に自分だけがポツンとイスに座っていた。壁には窓もなく、上を見上げると天井が高すぎるのか天井がよくわからない。

 目がチカチカするくらいの光は高い天井から来ているのだろうか。まぶしくてよく見えない。


 天井と光源を探すのを諦めて体勢をリラックスさせる。



「試験、お疲れさまでした。結果が出ました」


 試験監督の声が前の方から聞こえてきた。

 さっきまで誰もいなかったはずなのに、自分の目の前にさっきの試験監督が

 静かに立っていた。


 いつからそこにいたんだろうか?


 まぁいい。もう結果が出たのか。

 たった20問だしそんなに難しい問題ではなかった。


 自分は腕組みをしながら、前をじっと見つめて試験監督の言葉の続きを待った。


「試験の結果、不合格となりました」

「は? なんで?」


 予想外の結果に思わず、すっとんきょうな声が出た。


「どうして不合格かご自身でわかりませんか?」

「全然。むしろ、満点とれてたと思うくらい完璧な解答だったと思うが」


 まさか、解答欄をズラして解答を書いてしまっていたか?


 試験監督はイヤミのように大きなため息をついた。


「不合格の理由を自分で理解できない時点でお察しですね」



 さっきまでとうって変わってこちらを小馬鹿にするような物言いをする試験監督をギロリと睨む。


「それで、不合格者についてなのですが……」


 試験監督の言葉を最後まで聞くことなく、席を立って試験監督の元へと向かう。

 そのスピード感を殺さぬまま、試験監督に殴りかかる。


 しかし、自分のこぶしは試験監督に当たることなく空を切る。



 試験監督はいつの間にか自分の手の届かないところに移動していた。



「その衝動的に相手に危害を加えようとするところ。また、試験を不合格になるなどと微塵も考えていなかったところや、試験での解答で見られる『他者への思いやりのなさ』や『共感力のなさ』、『他責思考』など総合的に考慮した結果です」


 試験監督は一気に話すと、一息ついて手に持っていたファイルをパラパラとめくる。


「このような人格は、他人に対して支配的な行動をとったり、法を犯してもまったく反省しない可能性があるため、人間界への転生は禁じられています」


「よって……」と試験監督がまだ何か言っているが、もう私の耳には入らなかった。



 思い出した。


 私は、狭井さい狭子きょうことして生を受けて24年間過ごした。

 小さい頃から色んな男どもが群がってくるから、その時その時で好みの男と付き合っていたけど、最後の男が失敗だった。


 付き合っていく内に束縛するようになったので、別の男に乗り換えた。


「もう貴方に興味ないの。つまんない男はいらない」


 そう言ったら、ボコボコに殴られた。それからブツブツ何か言っていたけど、朦朧とする意識の中でこれだけは聞きとれた。


「俺以外のものにならないで」



 それが狭子としての最後の記憶。




「……聞いているのか? とにかく、貴方は地獄界から己の行いを悔い、反省し、転生の際には都度適正試験を受けるように。合格しないかぎり、現世に転生することはできぬからそのつもりでな」


 試験監督はそう言うと姿を消した。


 真っ白で何もなかった部屋は、暗くなると同時に目の前にひとつの扉が現れた。

 その扉は赤黒く汚れていて、扉の先は暗くて何も見えない。

 それはまるで、地獄界での私のこれからを暗示しているようだった。

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試験の結果は たい焼き。 @natsu8u

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