第178話

トキノリは自室で本を読んでいた。

そこに施設の責任者であるハルプンテから通信が送られてくる。

「トキノリ伯爵様。お休みのところ申し訳ありません」

「何かありましたか?」

「そちらの船員の方が揉め事を起こしまして・・・」

「揉め事ですか?それは申し訳ありません」

「いえ。そちらの船員の方は悪くないのですが責任者として顔を出していただきたくご連絡いたしました」

「わかりました。すぐに伺います」

トキノリは読んでいた本に栞を挟むとハルプンテの元に向かった。

「お待たせしました」

「お早いご対応ありがとうございます」

「それで状況を教えていただきたいのですが・・・」

「事の発端は当施設にあるカジノです」

「カジノですか?」

「はい。不正を働いた方がいまして。それを咎めたのが事の発端です」

「なるほど・・・」

「その不正を働いた方が問題でして」

「どういう方なんですか?」

「ヒューゲル侯爵家の跡取りです」

「それはまた面倒な・・・」

トキノリより爵位の高い家柄の跡取りとなればハルプンテが困るのも理解できる。

「それでうちの船員達は?」

「こちらです」

案内された先ではまさに一触即発の雰囲気を醸し出していた。

正直、関わりたくないがそういうわけにもいかないだろう。

「皆さん。落ち着いてください」

「伯爵様・・・」

「事情は聞きました。ですが、揉め事を起こすのはやめてくださいね」

「お前がこいつらの頭か」

そう言って声を荒げたのは見た目はぽっちゃりとした豚のような男だった。

「ハラヤマトキノリ伯爵です」

「伯爵風情の配下がこの私の機嫌を損ねるとはいい度胸だな」

「申し訳ありません。ですが、そちらにも非があったのでは?」

トキノリはそう言って下手に出る。

だが、それが裏目に出たようだ。

「こちらに非?そんなものは存在しない。私の機嫌を損ねたのだ。土下座して謝罪しろ」

流石に土下座までしてはアルベルトの顔を潰すことになる。

それは承服できかねた。

「揉めたことについては謝罪しますがそこまでですね」

「そうかそうか。プライドだけはでかいのだな。ならばこうしよう」

そう言って豚は手袋を投げつけてくる。

トキノリはそれを避けた。

「貴様!何を避けている。決闘の申し込みすら受けられないとは情けない」

「避けたのは何となくなんですが・・・」

これが決闘の作法だとはトキノリは知らなかった。

「ぐぬぬ。馬鹿にするなよ!」

そう言って反対の手の手袋を投げてくるがそれもトキノリは避ける。

その理由は受けたら受けたで面倒そうだからであった。

豚は屈辱に感じたのか、顔を真っ赤にしてプルプルと震えていた。

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