第119話

「ここまで美味い紅茶を頂いたのは久しぶりです」

「気に入っていただけたようでよかったです」

実際、今回使われた茶葉は高級品だ。

貴族の接待では茶葉のグレードで付き合い方を示す文化が存在する。

今回の場合は親しくしたいというメッセージが込められていた。

「もう少し踏み込んだ話をしても大丈夫そうですね」

そう言ってネスタルは口を開く。

「鉱石の行き先を気にされていましたが何かありましたか?」

「現在、アナスタシア皇女殿下がフロント星系に来られているのはご存じですか?」

「はい。話には聞いています」

「鉱石関連の不正をご調べになられています」

「なるほど・・・。つまり、我々が輸出している鉱石も何かしらの関係があると思われているわけですね」

「はい。そこまで大量に鉱石を集める理由が普通はありませんから」

「確かに普通に考えればその通りでしょう。ですが、同じ派閥の上位貴族に頼まれれば断るわけにもいきません」

「伯爵閣下の立場ではそうなるでしょうね」

「ご理解いただき恐縮です」

「問題はモーリス侯爵閣下が何故、そこまで鉱石を集めているかですね」

「私には知るすべもありません。お力になれず申し訳ない」

「いえ。無理を申し上げているのはこちらですから・・・」

「1つ。お聞きしてもよろしいでしょうか?」

「何でしょうか?」

「仮にモーリス侯爵閣下が悪事を働いていたとして私も罪に問われるのでしょうか?」

「いえ。伯爵閣下は鉱石を輸出していらっしゃるだけですから大丈夫ですよ」

「そうですか。それを聞いて安心しました」

エニュー帝国の法では派閥の貴族が不正をしないように相互に監視するように定められている。

怠れば連座という形で裁かれる可能性もあった。

「紅茶も飲み終わりましたし、私はそろそろお暇させていただきます」

「今回はご足労をおかけして申し訳ありませんでした」

「いえ。今後とも良き付き合いをさせていただければ幸いです」

そう言ってネスタルは待機していた船員に連れられ雪風を降りて行った。

「トキノリ様。出しゃばって申し訳ありませんでした」

「いえ。自分では貴族のやりとりはよくわからないですから」

「その為に、私がいるんですよ」

「サーシャさんをつけてくれたマルエ公爵には感謝ですね」

「それにしてもモーリス侯爵ですか。やっかいなことになりましたね」

「そうなんですか?」

「色々と黒い噂の絶えない人物です」

「それはまた・・・」

「そして証拠をつかませないやり手の貴族でもあります」

「厄介そうな人物なんですね。まずは1歩前進したことを喜びましょうか」

「そうですね。アナスタシア様にも連絡しておきます」

「お願いします」

実際、何に鉱石を使っているのかはわからないが何かありそうだ。

ネスタルからの依頼が終わったら現地に行って調べてみる必要がありそうだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る