第30話

音声記録にはこうあった。

「ユーラシア様を救助された方へ。この方はエニュー帝国サルベン公爵家の姫様である。ユーラシア様は政敵に命を狙われており逃げるために叔父であるマルエ公爵家への避難の途中に襲われて我々が無理矢理、救命ポットにお乗せした。救助された方へお願い申し上げる。どうか姫様の力になって頂きたい」

トキノリは平民だ。

出来ることなどたかが知れている。

貴族のことなど何も知らないし出来れば関わり合いたくはない。

だが、こうして寝ている少女を見ていると力になってあげたいと思うのだ。

「うぅ~ん・・・。ここは・・・?」

「お目覚めになられましたか?」

「私は・・・。そうだ。ヒューゲンの手の者に襲われて・・・。そこの貴方、他の者がどうなったかわかりませんか?」

「私が救助した際にはお乗りになられていた宇宙船は大破状態でした」

「そう・・・。ですか・・・」

そう言ってユーラシアは沈んだ顔を見せる。

「まずはご自分が助かったことを喜ばれるべきかと」

「そうなのでしょうね。でも、私を助けるために犠牲になった人達を思うと・・・」

「まずは食事にでもしませんか?少しは気がまぎれると思いますよ」

点滴で栄養を取っていたとはいえ、それは最低限の維持に抑えられていたはずだ。

栄養をしっかり取るということも大事なことだ。

「食べたくはありませんがそうも言ってられませんね」

正直、強い娘だと思う。

自分のするべきことがわかっている。

「では食堂に案内します」

そう言ってトキノリはユーラシアを連れて食堂に向かった。

普段は軍用のレーションで食事を済ませるトキノリであるが全く食材がないわけではない。

自動調理機に材料を投入してハンバーグ定食選ぶ。

「何か飲み物は飲まれますか?」

「貴方は、私が何者か聞かないのですね」

「音声記録で正体は知っていますから」

「そうですか・・・。心遣い感謝します。紅茶を頂けますか?」

「紅茶ですね」

トキノリはティーバッグの紅茶を用意してお湯を注ぐ。

味が出るのを待ってカップに紅茶を注いぐ。

そっとカップをユーラシアの前に置いた。

だが、ユーラシアは中々カップに口をつけなかった。

「こんなことをお願いできる立場ではないのですがお願いがあります」

「何でしょうか?」

「私を叔父の元へ連れて行ってくれませんか?」

音声記録の主も力になってほしいと言っていた。

ユーラシアを守る為に犠牲になった者達は立派だと思う。

少しでもその気持ちに応えたい。

「そうですね・・・。寄り道をしていいのなら力になりましょう」

「本当ですか?ありがとうございます」

そう言ってユーラシアはパッと笑顔を見せる。

思わずトキノリはその笑顔にどきりとした。

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