第4話

「セシリー、素人しろうとの俺が奴と戦って勝てる確率はどのくらいだ?」

「せいぜい三割ってところじゃない?」

「そんなにあるのか。なら、選択肢は一つだな」

「はぁ~。貴方って、ホント、お人好しなのね」

 モブおじは、蛇神へびがみに向かって走り出した。


 シュルシュルシュル!


 モブおじは、回転しながらやいばしている両手で攻撃を仕掛しかけた。

 そして、次の瞬間、ソフィアの頭上には、青い血の雨が降り注いだ。彼女の顔先にドサリと何かの肉塊にくかいが落ちる。それは、切断された蛇神へびがみの舌だった。


「キェェェェェーーーーーッ!」


 蛇神へびがみは、奇声きせいを上げながら苦しんでいる。更に痛みに混乱した蛇神へびがみは、たまらずソフィアを離し、後方へと退しりぞいて行った。

 きつけられた尻尾しっぽからソフィアが解放される時、彼女は、回転力を加えられたコマのように、いきおい良く床を転がった。


「さっさと口の中の異物いぶつを取りのぞいて、セシリーと避難しろ!」

 ソフィアは、その言葉にこたえ、両手で舌の残骸ざんがいを一気に引き抜いた。ザバザバーっという音と共に、彼女は再び白い液を吐き散らかした。だが、彼女に先程のようなか弱さは感じられない。


「で、でも、モブおじさんは、大丈夫なの?」

「少女をまもるのは、大人の男の役割と決まっている。分かったら、さっさとここを離れて先に行け」

「どうして、って間もない私なんかの為に……」

「俺は、お前が呼び出した運命の相手なのだろう? だったら、最後まで信じてみせろ」

「彼の言う通り、先に行きましょう」

「絶対、無事で戻って来て下さいね」

 後ろ髪を引かれながら、ソフィアは、セシリーと共に退場して行った。


一丁前いっちょまえに格好等つけおって」

「美少女の前で虚勢きょせいれるのは、男の特権みたいなもんだ」

だまれ!」


 ドンという衝撃音しょうげきおんと共に、モブおじは、石壁に押し付けられた。


自動防御オートガードだと?」

自動防御オートガード?」

「そんな事も知らずにわらわ歯向はむかって来たのか? このたわけが」

 見ればモブおじの周囲の壁は、半球状にへこんでいた。そんな状況でも無傷でいられたのは、自動で発動した球状のバリアのような物に守られていたからである。


「じゃぁ、次はこっちの番だなっ!」

 モブおじは、大きく息を吸い込んだ後、吹雪ふぶきのブレスを蛇神へびがみに向けてはなった。

「そのような拡散型かくさんがたの薄い攻撃では、わらわに致命傷は与えられぬぞ」


 蛇神へびがみは、ヌルヌルとこの攻撃をかわしていた。それでもモブおじは、吹雪ふぶきを吐き続けている。


 次第しだいに部屋は、こおり付いていった。


             *


「ぜぇぜぇ……」

「文字通り、息切れか。やはり、そのような攻撃では――」

「それはどうかな」

「何だと?」


 次の瞬間、モブおじは、両手の剣で蛇神へびがみり掛かって行った。


「そのような雑な攻撃――、何っ!」

 蛇神へびがみが自身の下半身に違和感いわかんおぼえた時、モブおじの二本のやいばは、すでに彼女の首を捕えようとしていた。

何故なぜ、動かん!」

 蛇神へびがみは、首をねられていた。


「変温動物は、低温下では動きがにぶくなる。さらに冷たい物に触れ続けていると感覚もマヒしてくる。自身のうろこが氷で床に接着されていても気付かぬ事もあるだろう。寒い地方では、氷にくっついたまま身動きが取れず、命を落とす動物もい多いのだ」

 モブおじは、転がっている蛇神へびがみの首を見下みくだしながら話を進めている。

「おぬし、まさかこれをねらって――」

「それから、の倒し方もセシリーで検索済みだ」

「や、止めろっ!」


 モブおじは、蛇神へびがみの胸の中心部辺りに剣を突きたてた。

 パリンというガラスがはじけるような音と共に、魔物のコアくだけ散る。それと共に蛇神へびがみの体が徐々じょじょに灰と化していく。


「神様ごっこもこれまでだ」

 モブおじが両手の剣化をき、勝利の余韻よいんひたっていたまさにその時、異変が起こり始めた――周囲が地響きを上げながら揺れ始めたのだ。


「フフフ。おろかな奴よ」

「な、何が可笑おかしい」

「この不安定な地域を支えていたのは、わらわじゃ。だからこそ、ここに住む者達は、わらわを神とあがめ、にえを差し出したのだ。わらわは、神様ごっこをしていたのではない。役割を代行していたのだ。さぁ、おぬしもこの土地と共に死ぬが良いぞ。ハー、ハハハハーッ」

「冗談ではない」

 モブおじは、神殿から脱出すべく、走り出した。


「アー、ハハハハーッ。アーハハハハーッ」

 背後では、蛇神へびがみの高笑いが響いていた。

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