第3話

――翌日――


「今日は、私の番じゃないはずですっ!」

「うるせぇ。そっちの女が、もうダメなんだよ。仕方しかたねぇだろう」

「お前が一番新入で元気なんだ。あきらめろ」

「さぁ、来い!」

「イヤーーーッ!」


 二人の見張みはり役は、ソフィアの両腕をつかみ、強引にろうから引きずり出した。

 モブおじ達は、透明化で身をひそめつつ、その後追い一緒にろうから抜け出す事に成功した。

 対面といめんろうを見やると、そこに居た女性はピクリとも動いてはいない。

「どうしたの? 後を追わないの?」

 セシリーがささやく。

「先に行ってくれ。俺は、ここの子達を助けてから行く。あの様子じゃ、助けられるかどうか分からんが――」

衰弱すいじゃくしてるだけでしょう? 助かるわよ」

「あんな状態なのに、助けられるのか?」

「当たり前じゃない……」

 セシリーは、当たり前の事と言わんばかりの表情で返した。


――しばらくののち、上階の蛇神へびがみの部屋前――


「透明化ってやつは、やっぱりすごいな。見張みはりも不意打ふいうちで楽勝だ」

「調子に乗ってると、足元すくわれるわよ」

「へいへい」


 ろうは、神殿の地下にあった。二人は、蛇神へびがみのものと思われる部屋の前まで来ていた。


「ここがあやしいわね」

「ああ」

 モブおじは、大きな鍵から中をのぞんだ。

「なっ! 何だ、あれはっ!」


             *


「も、もうやめて下さい……」

「良いではないか。わらわをもう少し楽しませてはくれまいか」


 少し大きめの薄暗い部屋。側面には大きな柱が何本か立っており、奥には祭壇さいだんのような場所があった。そして、その祭壇さいだんにいたのは、上半身は人間の女性、下半身は蛇の姿をした化け物だった。


「こいつが、彼らの言う『蛇神へびがみ』様か……。一体、何を始めようというのだ」

「もうぐ分かるんじゃない」

 セシリーは、さっしがついているような言い草で返した。


 蛇神へびがみの下半身は、ソフィアに巻き付いており、彼女を完全にとらえていた。彼女の上半身は、ゆらゆらとれながら、ソフィアの苦しんでいる姿を楽しんでいる。


「では、ご要望通ようぼうどおり、そろそろいただくとしよう」


 蛇神へびがみはそう言うと、舌を伸ばし始めた。その舌は、次第しだいに太く長くなっていき、その舌先は、ソフィアの顔のすぐそばまでたっしていた。

 そして、その二股ふたまたに分かれた舌先で固く閉ざされているソフィアの口を器用きように開くと、一気に彼女の口内へと侵入して行った。


「んんっ!」


 ソフィアは、目を見開き、涙を浮かべながら、苦悶の声を上げた。

 蛇神へびがみの舌は、ドクドクと脈打みゃくうちながら、彼女から何かを吸い上げていた。


 モブおじは、目の前の光景に唖然あぜんとしていた。

 その時だった。


「見たいなら、遠慮えんりょせず堂々と中に入って来い」


 ――ば、バレてる!?

 頭に響く蛇神へびがみの声に、モブおじとセシリーは、互いの顔を見合わせ、動揺どうようしていた。

「透明になって姿をかくしているつもりじゃろうが、わらわには、霊気れいきの流れで丸見えじゃ」

 モブおじ達は、覚悟を決め、目の前の扉を開けた。


「んんんんーっ!」

 ソフィアは、モブおじ達を見付けると、首を横に振りながら何かを必死に訴えていた。


「そのを離してもらおう。彼女は、俺のマスターらしいからな」


 その言葉を聞き、蛇神へびがみがソフィアの体内から舌を引き抜く。


「ゲホッ、ゲホッ、ゲホッ!」

 ソフィアは、咽ながら口から大量の白い粘液ねんえきを吐き出した。


「何とも健気けなげな。では、これならどうじゃ?」

 蛇神へびがみが指を向けると、モブおじの首輪がはずれ地面に転がった。その首輪は、そのままソフィアの元まで転がっていく。

「これでコヤツとの縁は切れた。そのチンケな体では、わらわには勝てぬ。そうそう立ち去るがよい」


 ソフィアもモブおじ達が勝てぬ事を理解していたのか、近くにあったモブおじの首輪を抱え、大粒の涙を流していた。

 モブおじは、怒りに身をふるわせながらも、只々ただただ、立ちくしていた。

「ハ、ハ、ハ、ハ、ハー。歯向はむかう勇気も立ち去る勇気も無しか。最高の余興よきょうじゃ。そこでこの女がなぶられているのを見ているがよい」


 再び蛇神へびがみの舌が伸び、ソフィアを襲う。 

 ソフィアは、全てをあきらめた様なうつろな目で蛇神へびがみに、なすがまま霊気れいきを吸われていた。

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