第2話

 ユグドラシルへ、ようこそ

 確認しました

 名前 アサヒ

 性別 女

 初期ランク判定 C

 初期保有スキル なし

 貴方のデータが登録されました

 初期設定の変更は出来ません

 職業を選択して下さい

 受理されました

 それでは、いってらっしゃい


 私は、ずっと、魔法使いになりたかった。誰もが知っているシンデレラ。お姫様に変身した彼女よりも、華麗に変身させてしまった魔法使いの方に憧れた。

 妖精のような衣装を身に纏い、キラキラと光り輝くステッキを振り、なんでも自在にしてしまう。私は平凡な人間だ。何の特技もない。

 だからなのだろうか、私は、ずっと、魔法使いになりたかった。


 それがどうしてこうなった!


 あの真っ白な空間に戻りたい。

 ユグドラシルのエントリールーム。

 最後に職業を選択出来ると知った私は、他の職業には目もくれず、魔法使いを選択した、だというのに、これの一体どこが魔法使いだというのだろうか!


 私は今、必死で逃げていた。身に纏うのはボロボロのローブ、手にはこれまたボロボロの杖、これで毒の入ったリンゴでもあれば、気分は白雪姫の世界である。

 違う! 私が夢見ていたのはシンデレラの世界。鏡よ鏡よ鏡さん、世界で一番美しいのはだあれ、などと唱えたくもない! 違う! こんな筈ではなかった。

 暮らしていた日本で、青信号の横断歩道を渡っていた時に突如、車が突っ込んできたのだ。

 ああ、私の人生これで終わったと思った次の瞬間、私はユグドラシルのエントリールームにいたのだ。

 まさかの異世界転生! そして齎された魔法使いになるチャンスに私は飛びついた。

 のだが、事態は私が思い描いていたものとはまるで違ってしまっていた。

 両親からゲームを禁止されていた事もあり、ロールプレイングゲームというものにこれまでの人生全く触れてこなかった私は、最初自らのボロボロの出で立ちに愕然とした。

 イメージと違う。気を取り直して、まずはこの世界に慣れようと、メニュー画面にあるチュートリアルを読んでみた。

 そして、報酬によってある程度の装備が整えられるらしい初心者用ミッションを達成する為、拠点のある街にある酒場で紹介された初心者用クエスト、

 “スライムを倒せ”を達成する為、初心者用ダンジョンに挑戦してみたのだが・・・


「誰か助けてええええええ!」

 

 目的のスライムは直ぐに現れた。ゆっくりと近づいてくるその不気味なモンスターに私はビクビクとしながらも、チュートリアルにあった通り杖を振ってみた。

 しかし、何も起こらなかった。


「?」


 もう一度振ってみる、しかし、何も起こらない。


「???」


 モタモタとしている私に、スライムが攻撃してきた! 体力の三分の一を失った。


「!?」


 まさかの事態で、動揺してしまった私は、ただ闇雲に杖を振るばかりだった。

 再び、スライムからの攻撃、どうやら当たり所が悪かったらしく、体力が点滅してしまった。


「!?!?!?」


 死の恐怖も重なり、完全にパニックになってしまった私。再び攻撃態勢をとるスライム。

 私は悲鳴を上げながら、頭を抱え、目を瞑って、その場にしゃがみこんでしまった。


「・・・・・・・・・?」


 来るはずだった攻撃が来ない。恐る恐る私が目を開けると、そこには


「怖かったね。でも、もう大丈夫、モンスターは私が倒しておいたから」


 これが、アカネさんとの出会いだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る