第6話 11:47 1967年8月24日

随分と走ったのだろう。

家主の車は大して新しくも古くもないありきたりな車で、唸り声を上げながら進んでいった。

彼は僕にサングラスをくれて、他愛もない話をしながら外を見ていた。

町はサバナ気候のど真ん中のような場所にあって、少し走らせたらサボテンと岩地の砂漠が広がる。


幼い時初めて港町から従姉妹の家に遊びに行った。

その時砂漠を見たのも、綺麗な青空を見たのも、それにコーヒーを飲んだのも初めてだった。

同じ砂漠も、青空も、コーヒーも大学に入学してから何度も見たはずだが、どれも思い出すことはできない。

まあ少年の感動というのはそう言った類のものなんだろう。


11:47 1967年8月24日

どうやらうたた寝をしていたらしい。

家主は僕を起こすと古びたレストランに入ろうと言った。

朝が早かったから構わないが、少々レストランに入るには早すぎる。

ただ僕は客人であって、浮浪者であって大学生であるから大人しく従うことにした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る