第5話 6:11 1967年8月24日

随分と不快な寝起きであった。

申し訳ないが僕は疲れているんだ。

それにまだ太陽も寝ぼけている。

こんな時間に人を起こすなんて大層趣味が悪い。


家主が言うにはここは自分の家で、浮浪者にしては随分と身なりがいいが、やっていることは浮浪者でしかない男が庭似ていると言うのだ。

君がきちんとこの家に住んでいるのなら、夜中にフェンスを壊して焚き火をしているその浮浪者とやらに注意をしたらどうかと思うが、まあこの町では私は客人であるから、町随一の頭脳を持ってしてこの家主に説明することはない。


どうやら家主は自分の家のフェンスの一部が焚き火にされていることに気づいていないらしく、僕が庭で寝ていること以外特段不快感を覚えていなさそうだった。

それならば話は早い。

僕は大学の夏休みであること、もう数百キロ先にあるヤードポンド法を使っている馬鹿げた国との国境まで行ってみたいこと、それから、これが一番大事なのだが、決して浮浪者などではなく国の宝のような青年であることを伝えた。


家主は僕の思った通り少し抜けた人で、もしくは田舎特有のおおらかな人と言うやつで、それは面白いと僕を迎え入れてくれた。

家主は今から朝食を作ってやると言って、僕をペンキが剥がれてまだらになったドアから家へといれた。

家具には統一感がなくこれまた田舎風であったが、木の床とカラフルの家具というのは僕の住んでいた港町にもないセンスであって新鮮であった。

この家にしては大きな机の下には先住民族風のカーペットが敷かれていた。

言われてみれば家主は混血顔であった。

僕は混血かどうかとか先住民であるかどうかで人を差別するような野暮な男ではない。

ただ文化的に自らと違うものを楽しむ教養があるだけだ。


そうこうしていると家主はコーヒーとハラペーニョののった炒り卵、そして煮豆を出した。

極めて家庭的な味に驚くばかりであったが、決してまずいわけではなかった。

コーヒーも洗練された味とは程遠い、酸味が目立ちすぎているものであった。


家主は次から次へと質問を浴びせてくる割に、決して早口でも、落ち着きがないわけでもなかった。

高性能な僕の脳は数時間しか寝れなかったこと、それに地べたで寝たことのために疲れが取れていなかったが、コーヒーのおかげか彼の質問にはすぐに返せた。


6:11 1967年8月24日 家主はとんでもない提案をしてきた。

ピックアップトラックに自転車を乗せて、随分と遠くの街まで僕を運ぶというのだ。

僕は無意味な自転車旅行をしたいのであって、国境に行くことは目的じゃない。

ただよく考えてみれば、無意味な自転車旅行は人の善意を受け取るものであろう。

平日なのになぜ僕をドライブに誘えるのか、はたまた長期休暇はこんな田舎町にも文化として浸透しているのか、僕はわからないが荷台に自転車を乗せることにした。

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