最終話「お礼と『お礼』」
「終わった、終わったんだよな。」
口から魂が漏れ出しそうになりながら、チャイムが鳴り響いた教室を見渡す。
周りの生徒もこの後の予定を話しあっており、少しお祭り感が強い。
「流石に今回の期末は大丈夫だな。」
「あいつにお礼しないとな。」
携帯を取り出して彼女に連絡を取ろうとする。
「
内容を確認する。
「あいつ知ったのか、まぁ遅かれ早かれ気づくよな。」
荷物をまとめ、クラスメイトにお別れを告げて教室を出る。
「このタイミングで送ってくるあたり、
下駄箱に向かえば、既に
「浅見様テストどうでしたか。」
「おかげ様で50点以上はお堅い。これなら夏休みは補習祭りにはならなそうだ。」
「それは良かったです。私も頑張って教えましたから。」
「そういうお前はどうなんだ。」
「凄い自信がありますよ。もしかしたら学年一位も夢じゃないかと。」
「俺といる世界が相変わらず違うな。」
二人揃って学校を出るのももう普通になった、未だにあれこれ言う奴らはいるが。
「この後暇か。」
「お時間は空いてますよ、なんなら夏休みはほぼ暇です。」
「なら良かった。行きたい所があってな、ここから数駅の場所なんだがいいか。」
「大丈夫です。浅見様からお誘いを受けるなんて珍しいですね。」
「そういう日もある。」
*
「綺麗。」
「ここ辺りだと結構有名なスポットらしい。」
やって来たのは町を見下ろせる高台にある公園だった。
「丁度あの先にベンチもあるし、そこで休むとしよう。」
「そうですね、テストの疲れもしっかり取るとしましょうか。」
道中の自販機で飲み物を買い、彼女に手渡す。
「こうしてまったりとしてると学校の屋上を思い出します。」
「恥ずかしい思い出だから話さないで貰うと助かる。」
「浅見様もなんだかんだ嬉しそうでしたよ?」
「そういう問題じゃない。」
夏間近だが、今日は風もあってかとても過ごしやすい。穏やかな風が肌を撫でる。
「
「浅見様からお話なんて珍しいです。今日は珍しい事ばかりです。」
「知ったんだろ、俺の両親のこと。」
俺の言葉で彼女が固まる。少ししてから震える体を抑えるように頷く。
「ごめんなさい、嫌でしたよね。」
「遅かれ早かれバレたことだ、お前が気に病む必要も無い。」
「でも。」
「お前が言いたい事は分かってる。その上で言いたい、それで苦しまないでくれ。」
俺の両親の事を知り、職場で話を聞いた、なら彼女はほぼ全てを知っている。
「きっと今の俺の言葉じゃお前を守れない、これからもきっと苦しんでしまう。」
「いいのです。それほどのことを。」
「違う、それだけは言える。だから聞いてくれ俺の話を。」
「・・分かりました。」
*
「君の両親はもう帰ってこない。」
小学一年生だったある日、俺は知らない大人にそう告げられた。
大きな火事があり、俺の両親はその火事の救出中の崩落に巻き込まれた。
「そんな。」
そこからの記憶はあやふやだ。
知らない大人、知っている大人、色んな人が俺の前に現れては消えていった。
「あの子誰が引き取るの。」
「まだあんな年齢よ、私娘いるし。」
親族から厄介者とされたことは理解出来た、その上で何も口に出せなかった。
(どうして二人は僕を置いて行ったの。そんなに他人が大事だったの。)
当時の俺は両親を憎んだ、俺を置いて先に行った二人を。
「この子は俺達が面倒を見ます。」
そう声を上げたのは両親の職場の方々だった。
「よろしくお願いします。」
俺は従うしかしなかった、それしか選択肢が無かったから。
それから学校、職場、家を回るように生活した。
職場の人は皆良くしてくれた、だからこそ俺は『苦しかった』。
「
「大丈夫。」
「
「大丈夫。」
行く先々で俺の両親が救ってくれた人に出会った。
皆口を揃えてこう言った、「ありがとう、助けてくれてありがとう」と。
(なんでこんな人たちを助けたんだ。)
未だに俺の心は暗かった。
「この家が最後だ。」
「そう。」
「
「・・・君は。」
「
「
それが俺と、
*
「ここまでは聞いた話だろ。」
「はい。」
「だがここからは違う。ここからが俺の、『本当のお話』だ。」
*
両親が助けた家族には俺と同じ年齢の少女がいた。
「ありがとう!お父様とお母さま、そして私を助けてくれて。」
「僕じゃない。」
助けたのは両親で、俺はじゃない。
「そうだとしてもありがとう!お父様とお母さま、そして私を助けてくれて。」
彼女は俺の手を取った。
誰も取らなかった俺の手を、君は確かに取ってくれた。
「大丈夫、あっそうだ、ほらもっと寄って。」
「え、うん。」
「ぎゅー!」
彼女は優しく、でも離さないように抱きしめてくれた。
気づいたら俺は泣いていた、きっと抱きしめられる前から泣いていたのだろう。
「ごめんなさい。」
俺は両親を憎んでいた、そして俺は両親に愛されていないと思っていた。
でも違った、愛されていた。
だって。
「この子を助けた。」
自分と同じ年齢の子を、未来ある子を助けた。
「愛されてたんだ。」
分かってた筈なのに、俺は信じられなかった。
「父さんと母さんは助けたんだ。」
なら
*
「だから『お礼』は要らないんだ、ずっと昔に俺はお前に救われた。」
「そんなの、私は知らなかった。」
「知る筈無いだろ、俺もお前に再会するなんて思わなかった。」
涙が止まらない彼女の手を握り、話を続ける。
「私は貴方の両親を殺した。」
「殺してない、あの場にいたのがお前じゃなくてもきっと二人は行ってた。」
「それでも。」
「けど、あの場にいたのがお前と、その家族だったから俺はこうして生きている。」
彼女と目が合う。
「あの日、お前が俺の手を取ってくれたから。」
「取ってくれたから。」
思い出す。あの火事の日、彼が手を取ってくれたから私はこうして生きている。
「同じだったんですね、お互い。」
「まぁそうかもしれないし、違うかもしれない。」
そう彼は笑いながら、私の涙を拭った。
「だから『お礼』はいい、お礼をしなきゃいけないのはむしろ俺なんだよ。」
「お礼をする...」
「だから言ってくれ、お前がしてほしい事を。俺が叶えられる範囲でだけどな。」
彼の笑顔が太陽のように眩しくて、悩み苦しんでた事が嘘みたいに心が軽くなる。
「・・・・・・・さい。」
「?」
「側にいてください。」
自分の気持ちに素直になる。贖罪の気持ちもある、けどそれ以上に。
「浅見様の側にいたい、ダメですか。」
「それがお礼になるのなら。」
彼が抱きしめてくれる、あの時と同じように。
「暖かい。」
「そうだな、それが俺を救ってくれた。」
「離したくない。」
「満足するまでやってくれ。」
「好きです。」
「俺も・・・・え、え!?」
ポロっと零れた私の本音に彼が固まる。
「す、好き?俺が!?」
「好きですよ、浅見様のこと。」
「あ、あ~ちと頭の回路がショート気味だわ。」
「顔真っ赤です。」
「お前もな!」
お互いに顔真っ赤にしていながらも、離さず抱きしめ続ける。
「ズルいですよね。」
「まぁズルいな。」
「でも『お礼』は続けたいです。」
「俺は要らないんだけどな。」
満足したのか彼女は俺から離れる。
「私は浅見様からお礼を貰い。」
「俺はお前から『お礼』を貰うか...お前な~。」
彼女の頭をグシャグシャと撫でる。
「そんなに笑えるならもう大丈夫だろ。」
「はい。」
「そろそろ帰るか。」
立ち上がり、背伸びする。
「そうですね、今日も浅見様のお家に行ってもよろしいですか。」
「いいぞ。・・・あとその『様』はもう堅苦しいしやめないか。」
「辞める....
「急に名前呼びかよ、まぁいいけどな。」
「じゃあ私の事も名前で呼んでください。『初恋キラー』は嫌です。」
「・・・・
「名前で。」
「
「はい!」
頭を掻きながら、彼女の笑顔に免じて根負けする。
「これからもよろしくお願いします。」
「お互いここからだな。」
「そうですね、これからも長い付き合いになりますしね。」
「あ~よろしくお願いします。」
彼女が俺の前に立つ。
「どうした?」
不意に風が吹いた。
意識がそれに割かれた瞬間、触れた。
「え。」
「
「おま、お前!そういうのはな!!!」
「何ですか、言葉にしないと分からないですよ。」
「言えるかボケ!!!!!!!!」
彼女の『お礼』はまだまだ続きそうだ。
火事から救った女の子から「お礼」と称して甘やかされる 焼鳥 @dango4423
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