日ノ本の陰鬱像

K

第1話

「あ~、ほんっと嫌になるよなぁ」


「なに、また値上げの話か?最近そればっかだよな、もっと楽しい話題とかねーの?」


「それ以外に何を話すっつーの。楽しい話題があるなら俺だって話したいっつーの、最近なんてガソリンもバーガーも200の大台突破だぜ?やってらんねー」


学校の帰り道にジャンクフード屋に寄っては愚痴を吐き零し互いを慰める日々。

いつも変わらずさほど味もうまくない塩分の塊を貪りながら今日も友達と文句を垂れる。


「こんな世の中じゃ稼ぐなんて夢もまた夢だよな、そんでもって稼げないと顔が良いだけじゃ彼女もできねーし」


「そりゃあいつらも同じだろ、男も女も稼げなきゃ価値がないしな」


「はは、そりゃそうなんだけどな」


くだらない話題に今日も心の傷を埋めてもらう。

ポテトの箱が空なのに右手を突っ込んで塩塗れにしてしまうことも最初は笑えていたはずなのだがもう口角がピクリとも動かない。

心も体も摩耗しているから娯楽に勤しんでポッカリと空いた穴を埋めに来るのに、まるで楽しくない。


ふと外を見れば黒い雨に混じって霰が降り注いでいた。

今日の予報は晴れだったはず。

思わずため息が漏れると、隣でガラケーをいじるサクラもそれに気づいたようだ。


「あっちゃー、こりゃひどいな」


「どうすんのこれ、サクラん家って結構遠いくね?」


「しゃぁないからバスで帰るよ、もう濡れて帰るのは私が死ぬからごめんだね」


「つってもこの辺のバス停屋根ねーじゃん」


「はー………っ、そうなんだよなぁ!」


二人でため息をついては、もう少し居座るかと静かに机に突っ伏した。

サクラも静かに顎を机に乗せて、すぐに寝息を立て始める。


「……」


「しっかり寝てんな、最近バイトづくしだったろ」


「……」


「それにこんな飯ばっかじゃ、健康にもなれやしねえ」



「そんでもって景気は悪くなる一方だしな、希望もあったもんじゃねえや」


ぐだぐだ独り言を呟いて、返事が返ってくるわけもないのに。

どこか希望を見出せないかとくだらない想像に、意識は溶け消えていった。

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日ノ本の陰鬱像 K @huzihuzikarin

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