天体観測
僕が副部長になってからも、天体観測と称したサバイバルゲームをやることになった。
ただ、夜中に墓地に集まって、朝まで一緒にいるということで、さすがに後輩の女子たちを連れていく訳にもいかない。
部長と相談して、保護者の許可を取れた希望者のみ任意参加という形で部員に募集をかけた。
そして当日、予想に反して後輩女子たちは4人全員が参加して驚いた。
ところが、墓地の展望台に到着して、みんなで雑望遠鏡の準備をしている最中に、後輩女子のうちの1人が、保護者の許可を取らずに参加したことが判明した。
まだ未成年である以上、さすがにそれはまずいと思って、送るから帰るように促したのだが、本人は大丈夫と言い張って帰ろうとしなかった。
後輩女子の他の3人は、どうやらそのことを知っていたらしく、その子を擁護して参加させてほしいと懇願する。
しかし、保護者の許可を取っていない以上、参加させるのは難しい。
帰そうとする部長と僕、それを引きとどめようとする後輩女子たち。
そのやりとりが1時間ほど続いた頃に、展望台の下に1台の車がやってきた。
乗っていたのは、黙って参加しようとしてきた後輩女子の兄とお父さんだった。
兄の方は、僕のクラスメイトだったが、そこまで親しくはない間柄だった。
どうやら、両親には内緒にしていたが、兄には行き先を伝えていたらしく、仕事から帰ったお父さんがそれを聞いて迎えにきたということだった。
お父さんはかなり怒っていて、高校生が引率の先生もなしに夜中に男女で集まるというのはおかしい。
娘は連れて帰るし、他の女子たちも希望するなら一緒に連れて帰ると言われた。
天体観測といいつつ、実際にやっているのはサバイバルゲームである。
歴代続いている部の活動であるとは言え、顧問の先生も知らない活動。
後輩女子たちを連れて帰るというのは、大人としては正しい判断で、うしろめたさもあってそれに抗弁することはできなかった。
しかし、他の後輩女子たちは、保護者の許可を取ってきているからと、お父さんの申し出を断った。
結局、許可をとっていなかったその女子だけが、泣きながら連れて帰られた。
去り際、後輩女子の兄から一言、「お前も大変だなぁと」と言われたのが精神的に少し堪えた。
車を見送った後、しばらくは雑談もできなかった。
僕は大人とのやりとりの間、緊張していたこともあって精神的に疲れていて、みんなから少し離れた場所に座って呆けていた。
そこにそっと近づいてきたのが彼女だった。
「先輩、大丈夫ですか?」
彼女もこのやりとりでかなり緊張していたと思うのだが、僕を気遣ってわざわざ声をかけてくれた。
それほどまでに僕が落ち込んでいるように見えたのかもしれない。
その後、彼女が他の部員に聞こえないような小声で
「他の先輩には内緒ですよ。」
と切り出して聞かされたのは、どうやら連れ帰られた女子は、僕の友人の1人に好意を抱いていたそうで、この天体観測が楽しみだったのだそう。
それができないとわかって、泣いていたのではないかということであった。
そんな事情があったのかと思ったものの、そんなことで泣くほどなのかなぁという疑問が浮かんできて、そのまま彼女に問いかけてみた。
彼女の天真爛漫な性格を考えれば、おそらくそんなことで泣いたりはしないだろうと予想していたのだが、返ってきた答えにドキッとさせられた。
「そんなもんですよ。私だって、先輩と天体観測できなかったら、泣くと思いますもん。」
「先輩たちと」ではなく、「先輩と」と言われたことで、僕個人をさしているのかと思ってしまったのである。
おそらく僕の思い違いだと思って、
「たしかにみんなで天体観測できないと、悲しくなるかもしれないな。」
と答えたら、彼女が少しがっかりしたような、あきらめのような表情を浮かべた。
そして一言、
「先輩って、鈍感って言われません?」
と言われてしまった。
「鈍感って、何が?」
ドキドキしながら、聞き返してみたのだが、彼女は立ち上がって、
「教えてあげませんよー。」
と言いながら、他の後輩女子たちの方へと戻ってしまった。
そんなやりとりで、彼女は僕に好意を持ってくれているのかもと勘違いしそうになる。
しかし、成績が良いわけでもなく、運動ができるわけでもない、何の取り柄もない僕に彼女が魅力を感じたり、好意を持つ理由など思い当たらない。
ただ、彼女に対する僕の気持ちだけは、ますます大きくなっていった。
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