第44話 13歳立夏②
彼らと別れて先を行く。もちろん目的地は、森の奥だ。
『泉じゃな』
「シラユキ、起きたのか。ああ、どうせならフォレストボアの大型個体を狩りたいと思ってさ。食べるところ沢山ありそうだし」
『とっくに起きておるわい!……はあ。泉じゃがな。精霊がおるぞ』
「あ、例の。中級精霊だっけ、泉の精ってこと?」
『そうじゃな。この気配じゃと概念ではないな。我のように自然を司るタイプじゃな。気配は弱いな……。少々憂慮すべきじゃが、我がいるから大丈夫じゃろう』
がさっ!
刹那、空気を切る音とともに突っ込んでくる気配に木を蹴って空中へ身を乗り出して避ける。続けざまに剣に魔力を込めると、水の斬撃を飛ばした。
ザシュッ。
飛ばした斬撃は背中を切ったが、まだだ。致命傷じゃない。
でかいな……。フォレストボアの大型個体を見るのは初めてだが、毛並みは赤黒く牙が巨大で馬車ほどの大きさだ。
すぐに体勢を立て直す。ボアが次に突っ込んでくる前に止めを刺そう。
空中に水をまいてそれを氷らせて足場を作り、駆け上がる。そのまま落下の勢いでボアに突っ込み、脳天に刃を突き刺した。
どさり、という音と共にボアは倒れたようだ。
刃に付いた血を水で流しながら刃こぼれをチェックする。この武器は、二つ星になった後の誕生日祝いとして師匠が贈ってくれたサーベルだ。王都で1番の鍛冶師の作で剣としてはかなり良い品だ。ただ、属性魔法との相性はそこそこで、全力で魔力を乗せても7割程度しか乗らない感覚なんだよな…。
ま、エイデン卿からはその方が属性剣の訓練になるから良いって言われたけど。
「いきなりだったなあ。まあ。汚れなかったし及第点って感じ?」
『うーむ。もっとこう、派手に凍らせるとか、ほれ、氷の剣山にするとかの方が良かったんじゃないかの』
「そんなに派手にすると肉が悪くなりそうだけど」
『ま、氷魔法の熟練度も上がってきたからよしとするかの。……そこの、それで隠れているつもりかの。早う出てこんか』
ボアの後ろ、泉のほとりで震えていたのは、一匹の水色トカゲもどき?だった。
「なんか後ろでプルプルしてるよ。そんなに脅さなくてもいいんじゃないか」
思い出した。このフォルムはウー○ールーパーか!よたよたこっちに来たぞ。
『冬の王には、ご尊顔拝し奉り恐悦至極に存じます。私は泉の精霊でございます。また、ご契約者様にも御礼申し上げます。このあたり一番の乱暴者、ブラッディファングボアを退治してくださりありがとうございます』
ブラッディファングボア?初めて聞く魔物だ。急いで死体に魔素記録本を翳す。
未登録か!ええと、ブラッディボアは記録があるぞ。あ、確か前に師匠と食べたことあるやつだな……。
私がボアの記録をしている間、両者は精霊同士で会話していた。
『面を上げて良し。やはり、水の精霊か。ん?お主湖の眷属か』
『はい、私は泉の精になりますれば、かつての湖沼の精霊様の眷属でございました』
『今代の湖のはどうじゃ、王になれそうか?海は、川はどうしておる』
『水の王につきましては未だその席は空席でございまする。その、私めは先代の湖沼の精霊様にお仕えしていた身であり、今代の方との繋がりはないのでございます』
『お主、今代に会ってないのでその有様なんじゃな』
『はい。その、もしかしてですが、そちらのご契約者様は水の……』
『さすがに分かるかの。そう。こやつは水の愛し子じゃ。しかしの、生まれてから今まで水の者とは誰も結んでおらん。ならば誕生の祝福をした我のもの。水の者共、皆揃って気づかぬとはな、流石にここまで鈍いとは思わなんだ』
ウー○ールーパーが白狐にへりくだっている……。
変な絵だな。とか思いながら話を聞いていると小さな光が舞い踊ってきた。
(水の!雪の!われらの王の子!)(水の子は氷の子。)(雪の子は冬の王の子)
お馴染み雪と氷の下級精霊だ。でもお前ら、夏に出てくると消えちゃうだろ。早く戻れ、と氷魔法で気温を下げて追い返す。
『ええ、ええ、そうでしょうとも。未だに水の王の位が空いているのは上の方々の怠慢です。空位となって数百年、庇護者がおらねば下位の精霊は安定いたしませぬ』
『そうじゃのう。先代の水の王は湖沼を司っておったが、新たに派生したのは湖と沼で分かれたであろう。それでは王を継ぐには弱いの』
『はい、未だ混沌としている王位継承に水の愛し子様が巻き込まれるのは良くありません。こうして愛し子が氷と雪の王である貴方の庇護下にあるというのは幸いでしょう』
『まあの、我は冬の王であるしの』
『なんと、これは、失礼仕りました。事象の王として格をお持ちとは、ほんに、安泰でございまする』
『なんだ。そなた先代の湖の眷属にしては話が分かるではないか。名を何と申す』
『はい、ニペーレと申します。水の先代様にお仕えしておりました。王の消失と共に力が衰えまして、今代の水の王にお目見えもできず今はこのような状態です』
『まさか其方、先代に名を預けておったのか?』
『はい、先代の水の御方の側近として忠誠をささげておりました』
『なるほどのう。それでそんなに力を落としておるのか。消えていないだけましだがのう』
「何、その名前を預けるのって不味いの?」
『いや、王が健在なら逆に恩恵を受けるものなんだがの。王が代替わりする前に解放してもらわんと、そのまま引きずられる。次代の王ならその繋がり断てるがのう。しかし、水の王は後継者が決まる気配がないからの』
『そうなのです。この通り、名を預けるとレイラインとの繋がりが王を通じてからしか受け取れませぬ。王との繋がりが切れた今、周囲からの魔素のみで生きております。最早、中級精霊としての力を保っているのも厳しいのです』
『其方、元から中級精霊ではないな。レイラインとの繋がりを断たれてまだ健在とは……』
『はい、私は泉の精霊でございます』
『なんと、上級の中でも概念を司る格の精霊であったか。ううむ、其方、力が戻ればこの大陸、いや世界中のどこの泉でも移動可能ではないか』
『はい。わたくしは”泉”を司る身なれば、世界のどの泉にも通じておりまする』
なんかこのウー○ールーパー凄い奴らしい。ちんまりしてぷにぷにしてるだけじゃないのか。
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