転生

「むきゃー!爆死したぁ!?」


 自分の手にあるスマホの画面。

 そこに映っているのは僕が表示していたゲーム。そのゲームのガチャ画面だ。

 その結果はあまりにも無惨な、無惨すぎる爆死だったが。


「ぐぁぁぁぁ……テスト勉強の時間まで削ってバイトして、その分の金を全てつぎ込んだというのに!」


 アホみたいに課金したのに、全然結果は良くない。

 すこぶる悪かった。

 こんな無慈悲なことがあるだろうか?泣いてしまいそう。


「はぁー、魔法のカード買ってこよ」


 それでもなお、僕は課金を辞めるつもりなど毛頭なかった。

 僕はしぶしぶ立ち上がり、リビングから玄関の扉に向かって歩いていく。


「まぶしっ」


 そして、その扉を開けた瞬間に僕の目を眩い光が襲う。

 これが夏の日差し。引きこもっていたから、これはかなりきびし……いやっ、待って?これって太陽の光じゃ……。


 パァーッ!


 甲高い音が僕の耳を打つ中で。


「はっ?」


 視界が戻ってきた僕が見たものは自分の方に一直線で向かってくる大きなトラックだった。

 

 ■■■■■

 

 ……。

 …………。


 はっ!?


 な、何が起きたの!?

 自分の視界いっぱいに広がったトラック。

 それを前に思わず瞳を瞑ってしまった僕は再び、自身の目を開ける。


「(……助かった、の?)」


 すぐ目の前にトラックが来ていたわけだけど……僕は結局、生き残れたということで良いのだろうか?これは。

 自分の意識がある、ってことはそういうことなんだろうと思うけど。

 あのトラックから僕はどうやって生き残ったというのだろうか?


「(それにしても、周りの草ヤバくね?)」


 なんてことを考える僕は自分の周りに生えている大量の草を見ながら、首をかしげる。

 うちの庭の草刈りは……まぁ、サボりガチではあったけど、こんな、自分の背丈を超えるようなものではなかったと思うんだけどぉ。


「(……んっ?)」


 とりあえず、周りの確認をしないと。

 そう思って体を動かそうと思った僕はズルズル、という自分の腹を地面が撫でるような感触と共に己の体が前に進むその感触に首をかしげる。


「(あ、あれっ!?)」


 そして、ここに来てようやく僕は気づく。

 何故か、手足の感覚がないことに。

 いや、それだけじゃない……自分の感覚が、これまで生きてきて培ってきたものと何もかもが違うことに。

 それで、僕は大慌てで自分の体を確認する。


「きゅーっ!?」


 そして、目に映るのは紫色の鱗。そして、縦に伸びる蛇のような胴体───そう。僕は、人じゃなくなっていた。

 

「(えぇぇぇええええええええええ!?)」


 前を向いていた僕の視界を覆いつくしていた、自分の背丈を超える草たち。

 それは、草が長いのではなく、純粋に僕が小さくなっていたのだ。


「(……これが、異世界転生、ってやつぅ!?)」


 一般通過オタクとして、ラノベ知識にも明るかった僕は、すぐに今の自分の状況を把握する。

 間違いない。

 僕はトラックに轢かれて転生する、という今時聞かないようなベタベタな方法で異世界に転生したのだ。


「(……ステータスオープンっ!)」


 それを把握した瞬間、僕はほぼ反射的にステータスオープンと心の中で叫ぶ。


「(……ッ!?)」

 

 その瞬間、僕の前に一つの半透明のディスプレイが出現する。

 とりあえずで叫んだステータスオープン。それはちゃんと機能し、自分のステータスを表示してくれた……それにしても、ステータスオープンかぁ。

 今時、こんなの見ないよね。最近の異世界系統の傾向からは既にステータスオープンは駆逐されている。

 それが今、こうして僕が使えるようになるとは……ちょっと意外だ。

 まぁ、便利だけど……それで?僕のステータスはどんな感じかなぁ。


 ◆◆◆◆◆


 名前:なし

 種族:ポイズンベビースネーク

 レベル:1/5

 ランク:G

 称号:『竜の卵』


 攻撃力:2

 防御力:3

 魔法力:1

 俊敏性:4


 固有スキル:

 『鑑定』

 

 スキル:

 『毒息』『かじる』『逃げ足』


 ◆◆◆◆◆


 よわぁー。

 全然この世界について知らない僕でもわかるぞ。絶対に弱いだろ。このステータス。

 これで強いわけがない。絶対に最弱クラスだ。


「(……鑑定か。行けるか?種族名鑑定)」


 そんな中で、おそらくはステータスを表示しているであろう自分のスキルである鑑定。

 それをピックアップし、心の中で鑑定を使ってみる。


《ポイズンベビースネーク》

《Eランクの魔物であるポイズンスネークの幼体。非力で特に特筆すべきところはないような警戒する必要もない魔物。相手を痺れさせるスキルを持っているが、ほとんど効果が無きに等しいようなものである為、これもまた、警戒する必要がない》


 ただ念じただけなのだが、何の問題もなくスキルは発動してくれた……してくれたけどぉ。

 ここまで弱いって連呼されるかぁ。

 普通に最弱クラスみたいな魔物じゃん。どうせ転生するなら、もっと強い魔物が良かったなぁ。


「……きゅー」


 さて、こんな最弱みたいな魔物で僕はこれからどうすればいいだろう……。


「グルルル」


 なんてことを悠長にその場で考えこんでいた僕の耳に、一つの唸り声が聞こえてくる。


「……きゅーっ」

 

 それで、声のした後ろを振り返ってみれば。


「……グルル」


 僕の目線の遥か上に頭を持つ、一つの狂暴そうな犬がそこにいた。

 その犬は僕が知っているような、可愛らしい犬ではなく……アニメなどに出てくるような、魔物と呼びに相応しそうな怖い犬だった。


「きゅーっ!?」


「ガァァァァッ!」


 スキル逃げ足はつどぉーっ!?

 その姿を、明らかに自分とは格の違うその姿を見た瞬間、僕は迷いなくこの場から逃走を開始させた。

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