第37話 第二の試練
『じゃあこれから第二の試練の説明を始めるよ。みんな、しっかり聞いてね』
朝メシを食べ終え、時計が8時を指したところでチャイムが鳴り、またあの男のホログラムが投影された。
白衣の男は相変わらずのニヤけ顔で、いかにも楽しそうだ。そして男は周りを見渡すと、一つ頷いてから話を始めた。
『第二の試練は昨日もちょっとだけ話したけど、チームプレイになるよ。これから君たちを4つのチームに分けるから、協力して試練に挑んでもらう。今回、基本的には君たち同士で争う必要は無いけど、もちろん星が欲しければ戦闘しても構わないよ』
その言葉にまた場がざわついた。争う必要がない。それが本当なら嬉しいところだが、なんとも言えない胡散臭さを感じる。こいつがこの状況を作った張本人である以上、まともな神経の持ち主でない事は明らかだ。
『それで概要だけど、簡単に言えば組んだチームでゴールを目指してもらう、ただそれだけだ。ね、簡単でしょ?そしてゴールはお馴染み鉄の塔。今回は皆で一つの同じ塔を目指してもらうけど、ゴールする順番なんかは問わない。気をつけなくちゃならないのは、制限時間付きって事だけかな』
そしてまたまた場がざわつく。おいおい制限時間付きかよ、もし間に合わなかったら一体どうなるんだ。まあ、少なくともろくなことにならないのは確かだな。
「おい、制限時間を過ぎたらどうなるんだよ」
そこで当然質問が上がった。大破だ。他のやつらも固唾を飲んで見守っている。
「残念!その質問には答えられませぇ〜ん」
そして男は間髪入れずに回答拒否。しかも小憎たらしい変顔のおまけ付き。これにはさすがの大破君も頭から湯気出してお怒りのご様子だ。…えっ大破、あいつ何かホントに顔真っ赤で湯気出てない?大丈夫かよ、爆発すんなよ。
『話を続けるね。なんと今回の転移先は迷宮、いわゆるダンジョンだ!聞いたことあるよね。そう、有名なあのダンジョンだよ、やったね!楽しみだね!それにいろんな魔物が生息してるから、成長するチャンスだ。いっぱい
な、なんと!まさかここに来てダンジョンとは…正直確かに心が躍る。その名称を聞いては、ゲーマーとしてワクワクせざるを得ない。
「ダ、ダンジョンですと!るりたそ殿、聞きましたか?拙者、不覚にもみなぎって参りましたぞ」
「うんうん、ゲーマーにとっちゃ夢みたいな話だもんな。こりゃあ今回の試練はお楽しみ枠かもな」
その話を聞いてやはりミッチーのテンションも上がったようだ。うんうん仕方がない、これは仕方がない。この気持ちは本能や性に近いものがあるのだ。
しかしダンジョンが魅力的なのは間違いないが、今回はチームで行けるという点も大きいな。ソロプレイじゃないだけでも難易度はグッと下がるだろう。生存率にも大きく関わる。
『その通り、ぜひ楽しんで欲しいな。きっとゴールする頃にはみんなたくましく成長してる事だろうね』
男がそう言うと、奥にある大きなドアからガチャリという音が聞こえた。あそこは今までロックされていたドアだ。
『それじゃ準備できたら全員で転移部屋に入ってね。その先に転送装置があるから。あ、ちなみにチームはランダムで決まるから今から相談しても意味ないよ。それじゃみんな、がんばってね!』
そう言うとホログラムはフッと消え去った。俺たちは何となく皆で顔を見合わせると、それぞれ荷物を持って席を立った。
「とりあえず昨日同盟組んどいてよかったかもな。同じチームに同盟組んだやつがいれば気が楽になるからな」
「ああ、寝込み襲われねえだけでも助かるな。さすがにずっと起きてる訳にはいかねえ」
「いやお前のこと襲うやつはいないと思うけど」
「大丈夫、もし瑠璃丘君を襲う人がいたら私、殺します」
「おい鳳、真顔でそういうこと言うのやめれ」
「鳳殿が言うと何だか迫力がありますなあ。いつの間にかヤンデレ属性も手に入れていたとは、さすがでござる」
「我ら女子は睡眠時でも反撃が出来るぞ。これが女の子の嗜みというやつだ。主ら男子も覚えておくと良い」
「いや、つぼみちゃん。普通の女子はそれ無理だよ」
「む?赤羽、我が普通の女子では無い…と?」
「え、いやそんな事は…」
「フッ…これぞ
「伊園うるせえぞ」
「何言ってんだこいつ」
「伊園君、ちょっと黙っといてや」
「くッ…貴様ら!」
やはり協力関係にあるのはいい。俺たちは仲間内でそんな軽口を叩き合いながら部屋を移動した。他の奴らは黙ったまま後をついてきている。こいつらも不戦同盟に入りゃいいのに。楽だぞ。
解錠されたドアの先は小部屋になっていて、床には大きな光魔法陣があった。多分これが転送装置なんだろう。ご丁寧に『17名全員で乗ると発動するよ』という立て札が立っている。
「じゃあ全員で乗ってみるか」
なんとなく代表で俺がそう言うと、みんなゾロゾロと魔法陣の上に乗ってきた。そして最後の一人が乗った時、床の魔法陣が激しく輝き出した。
「瑠璃丘君と一緒、瑠璃丘君と一緒、瑠璃丘君と一緒、瑠璃丘君と…」
ブツブツと呪いを吐きながら鳳が俺の腕にしがみつく。確かにこいつ強いし、俺も一緒のチームだと助かるは助かるが、なんだか精神的に疲れそうな気がする。個人的にはミッチーか大破と同じチームだと嬉しい。
魔法陣の輝きが増す。目を開けていられないくらいの光が俺たちを包み込む。
そして転送が始まり、まばゆい光が収まった時には暗い洞窟のような場所にいた。
「…ふう、無事転送が終わったみたいだな」
「そうみたいやね。なんや、まだ目がくらくらしとるわ」
俺の呟きに返答してくれたのは竹寺だった。どうやら俺は大量殺人キノコ兵器さんの竹寺と同じチームのようだ。こいつは頼もしいね。
そして周りを見渡すと、他のクラスメイトもいた。
無口な柔道マンの大石、無口な幽霊女の薄井、そして無口な双子の片割れ夜ノ森。俺と竹寺以外は見事に喋らないような奴らばかりだった。えっ、これマジ?竹寺いなかったら詰んでたじゃん。
「力石、俺たち同じチームらしいぞ。よろしくな」
「……うす」
「薄井、児玉とは別のチームで残念だったな。しばらくよろしくな」
「………」
「夜ノ森もよろしくな。頼りにしてるぞ」
「…うるさい」
ダメだこいつら。
一応でもちゃんと返事してくれたのは力石だけってどういう事だよ。夜ノ森に至ってはノータイム拒否だし、マジで足並み揃えられる気がしねえ。
「タケえも〜ん!お願いだよ、指揮頼むよ!俺じゃ無理だよ」
そして俺はすぐさま竹寺に丸投げした。そもそも何で俺が指揮せんといかんのだ。いや分かってる。答えは、この中で一番まともなメンタルの持ち主が俺だからだろ?分かってる。それは分かってるんだ。
だが俺だって、元々そんなに社交的な人間じゃないのだ。面倒事からは極力逃げてきたし、気の合う奴としか仲良くしてこなかった。頼むからこういうのは委員長にやらせてくれ。あ、もう旅立ってしまわれたか。南無南無。
「いややわ、そんなんか弱い女の子にやらせんといてや。この中やと瑠璃丘君が適任やろ。しっかり頼むで」
「いやいや無理言うなって。大体こんな頭に花咲かせてるやつの言う事聞くようなメンツじゃないだろ。ほら見てみろよ、夜ノ森のあの冷たい目を」
「…私は一人で行く」
冷え切った目を俺に向け、夜ノ森はそのままスタスタと一人で先へ行ってしまった。
中華鍋装備の頭に花咲かせた俺が、小太刀装備のおそらく強キャラ夜ノ森を止められるわけもなく、俺たちはその背中を見ることしか出来なかった。
後ろを見れば、黙って仁王立ちする力石に離れたところでぼんやりと佇む薄井。
こいつらとこの先行動するのか…流石の俺もめちゃくちゃ不安だわ。
唯一まともに話せる竹寺に目を向けると、竹寺はふんわりとした笑顔を見せた。
「がんばってや、リーダー」
キラーキラーハッピーソウル・モンスターズマスター・スタースターゲーム 〜突然訳の分からないデスゲームに巻き込まれた学生は、最低ランクの星一つ能力で生き残る〜 花祭 きのこ @kinoko36
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