第35話  STAGE1 リザルト


『追加試験お疲れさま。第一の試練はこれにて全て終了だよ』


薄井と児玉、そしてそのお付きの動物たちが休息所に戻ってきた直後、また例の男のホログラムが黒板前に映し出された。他の奴らはこいつを知ってるみたいで怖い顔してるけど、俺は会ってないから顔を見てもピンと来ない。


『さて、じゃあまずは脱落者の発表をするよ。横に一覧を出すから見てね』


男がそう言うと、その横に立体的な文字がパパパッと浮かび始めた。


《脱落者》

油崎あぶらさき 染助そめすけ:死亡。クラスメイトにより殺害。

○黒萬 竜生:魔獣暴走により脱落。

○城守 秀一:死亡。ハンターにより殺害。

○五反田 金太郎:死亡。ハンターにより殺害。

○堀田 聡:死亡。魔獣暴走後クラスメイトにより殺害。

天使あまつか 雫:死亡。ハンターにより殺害。

○八千代 糸葉:死亡。クラスメイトにより殺害。



ううむ、ここにいない時点でお察しではあったが、こうして死亡を突きつけられると何とも言えない感じだな。他の奴らも神妙な顔してこのリストを見てる。仲良いやつが死んだとなると、心に来るもんがあるだろうしな。俺?浅く広くが信条なのでノーダメです。


しかし3人はクラスのやつに殺されたのか。つまりこの中に平気で友達殺せるやつがいるって事だ、俺も気をつけんと。

あ、でも堀田は暴走してから殺されたのか。もしかしたら相手もやらなきゃならん状況だったのかもしれんな。


「こ、黒萬君は生きてるの?他の人は死亡ってなってるけど…」


と、そこで珍しく児玉が声を上げた。どうやら仲が良かった黒萬の事が気になるようだ。


「確かに彼は死んではいないよ。でも今後人間に戻ることはもう無いからね、この試練においては脱落とさせてもらったよ」


「も、戻らない…」


その言葉を聞いて落ち込む児玉。どうやら完全に暴走したら元には戻らないらしい。つまり暴走イコール人生終了という事か…。俺もそうならないように気をつけんといかんな。


『さて、残念だけど以上の7名はここで終わり。ここにいる17名は見事第一の試練突破だ。おめでとう、次の試練に進むことが出来るよ、やったね!』


男はパチパチと癇に障る拍手をするが、他のやつらの表情は優れない。そりゃそうだ、煽ってるようにしか見えん。それに予想はしてたが、やっぱり次があるのだ。最初の試練でこれならこの次は一体どうなるんだよ…嫌な予感しかしないわ。


『そんな嫌そうな顔をしなくても大丈夫だよ。第一の試練は生きる力、そして敵を殺す覚悟を課題とした。でも次の試練は君たちの成長を促進するものだ。無理に友達同士で殺し合う事はないよ。むしろチームプレイですらある』


その言葉に、にわかに場がざわつく。それが本当なら確かに最初の試練よりはマシだ。クラスのやつと敵対する必要がないってのはいい。


『でも詳しくは明日ね。今日一日はこの休息所でゆっくり休んで欲しい。多分明日からまた大変だろうから、しっかり食べてよく眠ってね』


にこやかにそう言うが、こいつが黒幕なんだよな?何かちょっと親切みたいな雰囲気出してるけど、なんちゅうひどいマッチポンプ。こんなん誰も感謝なんてしないだろ。


『じゃあ最後に試練達成の星を提出してもらおうか。それと頑張ったみんなにはご褒美とボーナスもあるよ、やったね!僕って優しい!』


「えっ?」


「ご褒美?ボーナス?」


突然の言葉にざわつくが、男は構わずに話を続ける。


『じゃあ順序よくやっていくからよーく聞いてね。まずは獲得した星を3つ出して欲しい。この時星の色は問わないけど、金星は残しておいた方がお得だよ』


俺は言う通りにバックルから銀星を3つ手に取った。そもそも俺はこの銀星3つしか持ってないからノーシンキングだ。

他の奴らも皆銀星か。あ、いや大破と塩原、それと一条は金星も混ざってるな。


『オッケーオッケー、みんな大丈夫だね。それじゃ星は回収するよ』


すると、男の言葉と共に皆の手元から3枚の星が消え去った。どうやったのか分からんが、これで無事クリアらしい。


『さてここからはお楽しみ、ご褒美の時間だ!まずはクリア報酬を渡すよ。そのまま手を出しててね』


男がそう言った次の瞬間、俺たちの掌の上に銀色のさくらんぼみたいなものが現れた。


『それは魔珠ソウルの一種だよ。あ、魔珠ソウルっていうのは魔物を倒した時に出現する、木の実みたいなアレの事ね。同期率を上げるやつ。これは特別性で、通常の物よりも濃縮されたものだ。ほらほら、遠慮しないで食べてごらんよ』


ソウル…あのゴブ豆ってソウルっていうんか。そしてなるほど、確かにこの銀色さくらんぼを見てると食べたい衝動が溢れ出てくるな。

俺は促されるままに銀色さくらんぼを口に入れた。う、うまあああ!!!ヤバ、これヤバいぞ!!失禁しそうなぐらい美味いぞ!!


カードを確認すると、俺の同期率は51%から54%に上がっていた。おお、一個で3%も上がるとはさすが特別性!こりゃ良い報酬だ。


「うっ…おぐ、げえぇぇーっ…!!」


そう思っていると急に塩原が隅の方へ走り、苦しそうに嘔吐した。


『ありゃりゃ、どうやら彼女はまだ体が出来ていないみたいだね。濃度の高いソウルを吸収できないようだ。もっと弱いソウルから取り込んでいかないとダメだね』


ん?どういう事だ?確か塩原はミッチーに星を3つもあげてたはず。その塩原だけがこの濃いソウルを取り込めないとは、一体どうした事だろう。

泣きながらゲロまみれになった銀色さくらんぼを拾う塩原を見て、俺は頭を捻った。床のゲロは不思議な事に消えていた。


『さてさて、続いてボーナスタイムだ!星がまだ残ってる人、いるよね。がんばった君たちには更なるご褒美があるよ』


男がパチンと指を鳴らすと、俺たちの目の前に突然金属製の箱が床から競り上がってきた。おお、すごくファンタジーな箱だ。重厚な本体に精緻な模様があしらわれてる、これぞまさしく宝箱。


『これはボーナス宝箱だよ。中身はランダムだけど、投入した星の数だけ良いアイテムがもらえるシステムだ。これを開けるには星が最低一つ必要。つまりノルマ以上に星を集めた人だけが開けられるって事さ』


なろほど、星を集めれば集めるほどいい物がもらえるシステムだったのか。あーくそっ、こんな事ならもっとハンターを探してコロコロしとけばよかった。


「おい、星は金と銀でどんな違いがあるんだ」


そこで一条が声を上げた。まだ説明の途中なのに、この子はもう…。


『今から説明するよ。いいかい、金星は銀星の倍の価値がある。つまり金は銀二つ分になるんだ。金星一つあれば結構いいものがもらえるはずだよ』


ざわつく現場。『じゃあ引きたい人は箱の穴に星を入れてね』という男の説明がされると、そこで一条が前へ出た。

一条は慎重に星を一つ取り出し、宝箱の硬貨投入口みたいな穴にそれを入れた。お、あいつ金星じゃん。いいな。


すると突然、一瞬だけ宝箱が青く輝いた。その現象に戸惑う一条に『準備ができたから開けて大丈夫だよ』と男が声をかける。

恐る恐る一条が宝箱の蓋を開けると七色の光が瞬き、そして光が収まると箱には何かが入っていた。


「これは…」


一条が取り出したのは80cmくらいの金属棒だった。名前は「地を掴む手ヴァリアブル・アース」というらしいが、どうも一条は使い方が分からんようで首を傾げている。そりゃそうだ、見た目ただの棒だもんな。


「ふむ、どうやらそれは武器ウェポンのようだ。棒の先端を地面に刺すと発動するらしい。名前もセンスがあるし、なかなか良いアイテムだ」


と、それまで見ていた伊園が突然そんな事を言い出した。

「伊園君、突然何を…」そう言いかけた一条の顔がギョッとした。伊園の額にはもう一つの眼があったのだ。こ、こいつマジか。厨二病こじらせて本物になりやがった…だと。

俺も他の奴らもみんなびっくりしている。


「フッ…またつまらぬものを見てしまった。我が真眼はあらゆるものを見通す。そう、人のカルマですらもな」


そう言いながら手で額を押さえる伊園。いちいちアクションがうざいが、正直こいつは驚いた。まさかこんなやつがチートの代表鑑定能力を持っているとは。こいつが敵に回ったら面倒そうだ。ちょっと考えとかんといかんか。


「な、なるほど。悪いね、助かるよ」


一条は珍しく大人の対応で金属棒を持って宝箱から離れた。どうやら持ってる星はあの一枚だけだったらしい。


「次、私が引く」


次に前へ出てきたのは、これまで殆ど口を開かなかった夜ノ森 黒江だった。こいつはいっつも双子の白江と一緒にいたんだが、片割れがいないところを見るとどうやら融合とやらを喰らったんだろう。

こいつは二番目にここに着いたらしいが、なんと銀星を3枚も宝箱に投入していた。マジか、こいつハンタージェノサイドしすぎだろ。しかも一人で。どんなチート能力持ってんだよ。


夜ノ森が星を投入すると、今度は宝箱が一瞬黄色に光った。あれって星の枚数に関係してるのか?レア度か何かの示唆演出だろうかね。


「刀…?」


そして宝箱から出てきたのは一振りの小さな刀だった。いや、あれは小太刀っていうんだっけか。いいなあ、かなりカッコイィ。


「おお、それは『月蝕』という名の小太刀らしい。敵を斬りつけると…」


「いい、自分で使って確かめる」


目を輝かせて鑑定する伊園だったが、すぐさま夜ノ森に封殺された。どうも刀の性能を周りに知られたくないようだ。こいつ、全然クラスメイトを信用してないな。俺も人のこと言えんけど。


「では次は我が引かせてもらおう」


次に前へ出てきたのは、世紀末覇者子こと花沢 つぼみだった。

花沢が銀星を一つ入れると、宝箱は白く光った。そして中から出てきたのは、フリルのついた丈の短いピンクのドレスだった。魔法少女とかプリなキュアとかそういう感じの、ハートやらリボンやらが満載の服。それを手にとった花沢は固まってしまった。

うむ…なんだろうね。そりゃランダムってのは聞いてたけど、花沢もまさかこんなもんが当たるとは思ってもみなかっただろ。さすがにこれは着ないだろ。…着ないよな?


「…イソノ、どう思う?我に似合うと思うか?」


しかし花沢は強かった。その表情。こいつ、やる気か…?見上げた根性だぜ。


「あ、ああ。多分、大丈夫…じゃないかな?そ、その服には火耐性が付いてるみたいだし、性能自体は良さそう。性能自体は」


水を向けられた伊園がしどろもどろになる。おい、厨二キャラがブレてんぞ。

花沢は「うむ…そうか」と頷くと、神妙な顔をしながらシャワールームへと消えていった。次にあの扉が開く時には、気を強く持っている必要がありそうだ。


『さあ、星が余ってる人はもういないかな?そろそろ締め切るよー』


そして白衣の男が呼びかける。そうそう余分な星を持ってるやつはいないだろ、と思っていると、そこでおずおずと塩原が前へ出た。さっき吐いたからか、まだ少し顔色が悪い。


「あ、あの…私も引きます」


そんな塩原は緊張した様子で金星を一つ投入。そして青く光った宝箱からは小さな丸い玉が出てきた。


人形の種子ゴーレムシード…。ど、どうやって使えば…」


塩原が助けを求めるような目で伊園を見ると、顔を手のひらで覆った伊園が得意げに口を開いた。


「フッ…、それはゴーレムを制作クリエイトすることができるアイテム。火や水、土などの属性物エレメントに入れればゴーレムが出来上がるらしい」


「わ、あ、ありがとうございます」


おお、なかなか有用なアイテムじゃないか。炎のゴーレムとか超カッコいい。

しかし塩原すげえな。ミッチーにも星あげてさらに手元に金星残してるって、どんだけジェノサイドしたんだよ。ホント、人は見かけによらんものだな。


そして塩原に続く者は現れず、ボーナスタイムは終了となった。


『じゃあこれにて第一の試練は全て終了!明日は9時に第二の試練を始めるから、今日はゆっくり休んでね』


そして男のホログラムは、その言葉とともに消えて無くなった。


確かに明日からはまた大変そうだ。今日だけでもしっかり休んでおくか。

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