深夜3時に寄り添いたい。
桐乃 爽羅
貴方と。
「
震えた声で呼ばれる私の名前。
ふっと浮上する意識。
眩むような刺激を与えてくる携帯端末で知る時刻は午前3時。
肩を震わせ、かすれた声と潤んだ瞳で見つめてくる彼氏。
「ごめんね、怖くなっちゃった」
彼は職場の人による日常的なパワハラで心が疲れきってしまった。
医者からはうつ病だと診断され、重度の睡眠障害を患っている。
今日もまた悪夢に起こされたらしい。
「ごめん。起こされて嫌だよね、寝て大丈夫だよ。」
慣れたから大丈夫。
なんて言えるほど私も元気ではないけれど、彼の安心した顔が見たいから。
そう思考しながら彼の頭を撫でた。
「怖くないよ。だって私が一緒でしょう?」
これがいつもの声掛け。
いつだったか、おまじないのように掛けていた言葉が彼にとっての安心材料になっていた。
鼻をすすって寄りかかってくるのが可愛いんだよな。
「その言い方、まるで俺が子供みたいじゃないか。」
「あぁ、ごめん。口に出てたみたい。」
まあ、親離れができない子供みたいではあるけれど。 とは言えず。
よしよし と濡れ羽色の髪を撫で続けるだけの暖かい時間。
彼と付き合い始めて6年が経つ。
同棲は3年。
未来とはお互い何となくで学生生活をしていた中、偶然にも図書室で同じ本を手に取ろうとしたことで出会う…なんとも在り来りな少女漫画の様なシチュエーション。
あまり人気とは言えない作家だったものだから盛り上がって仲良くなった。
昔から支え合う関係を理想としていた私と、思考が似通った彼が恋人になるまで時間はかからなくて。
「希はさ、俺で良かったの?
希ならもっと素敵な人が見つかるだろうに。」
「馬鹿言わないでよ。
私が未来の好きなところ、何個言えると思ってるの?」
ぐっと押し黙る彼。沈黙数秒。
「でも、」
「でもじゃありません。
それとも何?私が後悔していない選択にケチつける気?」
また無言。
彼は昔から、1歩間違えば相手が離れてしまう発言をする。
元カノたちには“重い”などと振られたそうだが。
彼の素敵なところを沢山知ってる。
元カノたちの言う“重い”だって、
彼の不安から来ていることを知っている。
私にとって、彼は大切な人なんだと自信を持って明言できる。
「未来は私といて幸せなんでしょ?」
「当たり前だよ、幸せ。
こんなにも安心できる存在は他にいない。」
「じゃあ、いいじゃない。幸せなんだから。」
彼は覚えているのかな。
同棲始めたての時、新天地でのストレスで悪夢を見て飛び起きた私に
『大丈夫だよ、俺が一緒にいるからね。』
そう言って安心させてくれたあの日から、
私は貴方と寄り添いたいと思ったのよ。
「ねえ、未来」
愛しているのよ。
深夜3時に寄り添いたい。 桐乃 爽羅 @ecymrmr
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